「より軽く、より遠くへ。」普遍的な想いを形にした28Lパック

PaaGo WORKS 『RUSH28』 ー design and manufacturing vol.1 ー 

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2014年発表の『RUSH7』を皮切りに、2015年春には『RUSH12』を、秋には『RUSH28』をリリースしたパーゴワークス。11月に群馬県嬬恋村で開催された『OMM JAPAN 2015』でも愛用者の多かった『RUSH28』について、デザイナーの斎藤徹さんに開発ストーリーをうかがった。

 

背負って楽しいパックを目指して

—–今年、各地のトレイルで『RUSH』シリーズを見かけました。たくさんの方々に選ばれているのを感じます。新たに仲間入りした『RUSH28』について、まずは特徴から教えてください。

斎藤:『RUSH』シリーズの流れを汲むパックで、容量は28L、重さは約550gと軽量につくっています。特徴は大きく4つあります。

1)パックの揺れを防ぎ、体へのフィット感を高めるトップスタビライザー
2)背負いながらパック容量を調整できるセンターコンプレッション
3)アクセスの良い、RUSHシリーズ共通のフロントポケット
4)広くてアクセスの良いメイン開口部。

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これまでの『RUSH』はトレイルランニングを目的としていましが、今回の28Lはテント泊を前提にしたパック。より荷物が重くなりますので、背中のパッドはこれまでより発泡密度の高いものを使用し、しっかりとした感触に仕上げています。
ショルダーベルトは『RUSH』シリーズを踏襲したつくりで、ポイントは肩につけたトップスタビライザーです。これをギューッと引っ張ると、パックが身体の中心に寄っていきます。

ちょっと他のパックと背負い比べてみてください。違いが分かると思います。既存のいわゆる「走れるパック」は肩から上の荷重が抑えられていなくて、走ると揺れるものが多いのです。その理由は、上部の揺れを止める機能が省かれているから。動いた時にパックの上部が振られるため、結果として下部も揺れてしまうんですね。
ショルダーベルトも一般的には柔らかい素材を使ったものが多いのですが、ここに剛性を持たることで揺れを軽減しています。

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—–トップスタビライザーについて、詳しく教えていただけますか。

斎藤:トップスタビライザーというのは、大型ザックには必ずついている機能で、高い位置にある荷物をより身体に寄せるためのシステムです。これがあることで安定性が高まるわけですが、小さいパックではよく省かれます。

またトップスタビライザーがあったとしても、コードの位置に落差がないと機能が充分に果たせません。スタビライザーのトップから肩までの高低差、距離があった方がいい。高い位置でコードを引っ張った方が、より揺れにくくなります。スタビライザーのコードが長くて、さらに設置角度が鋭角なのが理想。小さいパックでスタビライザーが省かれがちなのは、パック自体の長さが短く、角度がつけにくいことも理由のひとつです。

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—–昨年の『OMM JAPAN 2014』では、ご自身でプロトタイプを試したとうかがいました。

斎藤:左の黄色いパックがそれです。使ってみたところ、「これはパーゴワークスじゃない」と感じたんですね。

—–どんな点にそう感じたのですか?

斎藤:背負っていて楽しくないんです。快適性を削っていた部分があったので、どこかで無理をしている印象がありました。友人たちには好評でしたが、これはパーゴワークスのものづくりとはちょっと方向性が違うなと思ったのです。身体的、精神的なストレスを減らすのが『RUSH』の基本コンセプトなので、原点に帰って一から試作を重ねました。

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「小さなザックひとつで山で過ごしたい」という想い

—–『RUSH28』の特設サイト(RUSH SPECIAL SITE)には、25年ほど前に買ったザックのエピソードが登場します。30L前後のパックで一泊できることがずっと理想だったとか。

斎藤:これがその時のデイパックです。25年ほど前、新宿の登山用品店で買いました。最初ある店で、セール品の30Lのザックを店員さんに見せて「荷物を減らせば、これでもテン泊ができますよね?」と尋ねたんです。すると店員さんは苦笑して、常識的な60Lを勧めてくれました。でもお金もなかったし、結局は別のお店でセール品の30Lザックを買いました。

さっそく秋の雲取山にテン泊をしに行ったのですが、寒さと餓えで、とても快適とは言いがたい経験でした。その後、社会人になって60Lのザックを買い、常識的な山とのつき合い方を始めましたけれど、やっぱり30Lクラスのザックが好きで(笑)。このクラスのザックひとつで、山で過ごせたらどんなに楽しいだろうとずっと思っていました。

隣はその時に持っていったテント『ムートンライトワン』。当時は一人用のテントといえば、これ一択でしたね。

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—–以前のインタビューでも感じたのですが(『山物語を紡ぐ人びと vol.11』)、長年の想いをかたちにして製品化されることが多いのですね。

斎藤:そうですね。これもある意味、20代の頃から始まった想いですからね。当時から山に登る人たちはみんな軽量化を意識していましたので、自分も30Lのデイパックで一泊してみようと思ったわけです。雨蓋のついたザックも売っていましたけれど、デイパックで一泊した方が格好いいかなと思ってね。よくわからない論理ですけれど(笑)。

——思い出の品もしっかり保存されています。

斎藤:物持ちがいいんです。この青いザックは、小学校6年生のときに初めてカスタマイズしたもの。皮のタグやエンブレムがついているデイパックを見て格好いいなと思い、真似しました。当時はウエストベルトも標準装備ではなかったので、自分でつけています。

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ユーザーに我慢をさせない

—–パーゴワークスらしさ、『RUSH』らしさとはどんなところにあると思いますか?

斎藤:「新しさ、独自性」でしょうか。どのプロダクトでもまず最初に設計要件を決めます。このパックの場合は「一泊の荷物が入ること」「走れること」です。この要件をクリアするには何通りもの方法があると思いますが、僕は常に新しい方法にチャレンジしたいと思っています。とにかく「見たこともない物」を作りたいという思いが強いんです。だからいつも商品化に苦労するんですけどね…(苦笑)。これが結果的に「パーゴワークスらしい」と思われれば嬉しいです。

『RUSH』らしさは、身体によく馴染むことでしょうか。ソフトな背負い心地を追求した結果、素材もデザインも柔らかいイメージになりました。

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—–斎藤さんのものづくりの根底にあるのは、どのような考え方ですか。

斎藤:ひとつは、ユーザーに我慢をさせないということ。もうひとつは、新しい気持ちになってもらうということですね。一般的にUL(ウルトラライトハイク)やファストパッキングのものづくりは、体力や山の技術がある経験者をユーザーとして想定していて、ある程度、我慢を前提にしたつくりになっています。でもうちは、その方向性とは違うものづくりを考えています。

山の経験値の高い人たち、たとえば服部文祥さん(サバイバル登山の提唱者)のようなスキルの高い人だったら、極端にいえば、どんな道具を使っても楽しめてしまうわけですね。そうした層に向けた商品づくりは、うちはしなくてもいいかなと思っています。

それよりも、もっと一般の人の遊びのために商品をつくっていきたい。ハイエンドに向けたものではなく、エントリーユーザーが純粋に山を楽しめるようなものをつくっていきたいんです。

「より軽く、遠くまで行きたい」という思いは、ハイカーにとってもランナーにとっても永遠のテーマだと考えています。そのテーマは、バックパックに関しても全く同じこと。「より軽く、より遠くまで行ける」というのが、ひとつの理想形なのかもしれません。

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—–エッジの効いたものづくりをするガレージブランドも増えています。

斎藤:タフな人たちが自分たちのためにつくるプロダクトも、時代のカウンターとして魅力的な存在だと思いますし、そういうチャレンジは僕も大好きです。でも、パーゴワークスはそういう存在ではない。誰かのためにつくったデザインでありたいと思っています。その方が人に優しいものができるからです。

言い換えれば、お客さんやマーケットに対してのプレゼンテーションというのかな。「こんなのはどうですか」という提案のようなものづくりですね。

—–ご自身では、パーゴワークスをどのように位置づけていらっしゃいますか?

斎藤:スモールメーカーですかね。一時期は「ガレージブランド」という響きが格好良く感じて、そう言われると嬉しかったけれど、いまはそういう感じではないかな。三流メーカーくらいがぴったりです(笑)。

ULカルチャーやMYOGカルチャーに属していると、どうしてもそこから外れるのが恐いという気持ちが起こってしまいます。でも、それはなんだかもったいない。みんな、もっと新しいことにチャレンジしてもいいのではと思ったりしますよ。「この枠から外れてしまうのではないか」という不安を抱いてしまうのは、デザイナーとしてはよくないと思うんです。

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—–かつては、ご自身で製品を縫っていらっしゃいましたが。

斎藤:売れれば売れるほど縫う時間がかかるし、お客さんを待たせてしまう。すると「もういいや」と諦めてしまうお客さんも出てきます。バックオーダーを抱えるのもストレスだし、お客さんを待たせてキャンセルが出てしまうのも心が痛む。遊びにも行けなくなって、インプットも減る。

僕はインプットもアウトプットもたくさんしたい方なんです、欲張りなので(笑)。だから、今の道を選んだのだと思います。

—–この一年で、『RUSH』を手に取る方の幅も広がったように感じます。

斎藤:僕も時々、トレイルランニグの大会でリサーチをしますが、今年は本当にたくさんの方に使っていただいているなと実感しました。
去年は感度が高く、常にアンテナを張っている方たちが使ってくれていましたが、今年は販路を増やしたこともあり、トレイルランのエントリーユーザーも使ってくれています。といっても、いきなり出荷量が膨大に増えたわけではありません。展示会でショップから受けた注文分をつくっただけです。

—–これからの展開について聞かせてください。

斎藤:日本人にとって日本のブランドというのは、地理的なメリットもあった方がいいわけです。ユーザーとデザイナーが近いことで『RUSH』のようなプロダクトも生まれたわけですし、個別の改造や修理などにもすぐに対応できます。こういうプロダクトを通じたコミュニケーションこそが、日本でものづくりをしている醍醐味です。これから少しずつ、そうした日本ブランドとしての開発手法を構築していきたいと思っています。

【SPEC】
RUSH 28
■価格:17,000円(+税)

■カラー:グレー ■サイズ:530 x 300 x 200mm ■最大容量:約 28リットル ■重量:約550g
■主素材:ナイロン70D、スパンデックス 、エアメッシュ ■付属品:バンジーコード2m、コードストッパー4個

 

place: PAAGO WROKS inc
photograph: Shimpei KOSEKI