Books-vol.3『EAT&RUN ~100マイルを走る僕の旅』

EAT&RUN補正

 

距離が長くなるほど強くなる

著者のスコット・ジュレクは、アメリカの偉大なるウルトラランナーだ。伝統ある100マイルのトレイルランニングレース “ウエスタンステーツ・エンデュランスラン” を7連覇、灼熱のデスヴァレーを走る “バッド・ウォータ−・ウルトラマラソン” 2度の優勝、そして ”24時間走” アメリカ記録樹立など数々の伝説を生み出してきた。

この本で彼はこれまでの人生を振り返り、走ること、生きることについて赤裸々に語っている。

料理上手でいつも前向きな母親と、厳格で「とにかくやるんだ!」が口癖の父親のもとに育ったスコットは、小学生のとき、短い距離では特別に速くないのに、距離が長くなればなるほど同世代の子どもよりも速く走れる自らの資質に気づく。その後、クロスカントリースキーに夢中になり、トレーニングとしてマラソンを取り入れるうち、いつしかウルトラマラソンランナーの道を歩み始める。

 

食べて走るというシンプルな生き方

理学療法士として働きながら、ウルトラマラソンのレースで優勝を重ねるスコット。トップアスリートとしての意識に目覚め始めた彼は、食と体の関係について追求し、完全菜食主義者=ヴィーガンになることを選び取る。

一方で、若い頃に発症した多発性硬化症が進行し、簡単な動作もままならなくなっていく最愛の母の姿を通して、走ることとは何か、生きることは何かを自らに問い続ける。母は、見舞いに来たスコットに対して別れ際に決まってこういう。「私は強いのよ。心配しないで」。

スコット・ジュレクはまるで何かを渇望するかのように走り続け、勝利を掴んできた。その飢渇はものすごく強く、とてつもなく深い。

後半部分では、伝説のウルトラランナーとして多くの人々に愛され、若いランナーたちに憧れられながらも、「いつか自分は走れなくなるのではないか」という不安や迷いを抱いていることを吐露している。その姿から、スコット・ジュレクというランナーの誠実で真っ直ぐな人柄が垣間見える。

ーーー 人生はレースじゃない。ウルトラマラソンだってレースじゃない。そう見えるかもしれないけれど、そうじゃない。ゴールラインはない。目標に向かって努力をして、それを達成するのは大切だけれど、一番大事なことではない。大事なのは、どうやってそのゴールに向かうかだ。決定的に重要なのは今の一歩、今あなたが踏み出した一歩だ。ーーー

随所に登場するスコットのレシピを再現した料理写真が、実に美しい。卵も乳製品も使っていないヴィーガンメニューだが、多国籍な料理を楽しみ、米や野菜や豆類を日常的に食する私たち日本人にとっては馴染みやすく、ちょっと試してみたくなる。

体と向き合い、食べて走るというシンプルな生き方は、人のあるべき姿のひとつなのかもしれない。

あくせくと時間を惜しみ、つい前のめりに生きがちな日々の中で、時には自らのスタートラインに立ち返るべきであることを、この本は教えてくれる。

 

『EAT&RUN 〜100マイルを走る僕の旅』
スコット・ジュレク / スティーヴ・フリードマン 著
小原久典 / 北村ポーリン 訳 (NHK出版 / 2,000円 税別)