「自由に旅できる日はいつ戻るのだろう」久保信人さん(フィールズオンアース)

新型コロナの感染拡大によって、わずか数ヶ月で世の中は一変した。その変化は流動的で、日本国内ではいまだ終わりが見えてこない。

一方で歴史を紐解けば、人類は何度も天変地異や疫病に見舞われ、それらを乗り越え生き抜いてきた人びとが、この世界を作り上げてきた。そう考えると、今後いくつもの解決策が生み出され、世界は新しい方向に向かうのだろう。

行動制限が続くなか、いまアウトドアに携わる人たちは何を想い、どう過ごしているのか。このコラムではそれぞれの現状を伺いながら、アフターコロナに向かっての知恵を集めてみたい。

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2019年トルデジアンツアー。一番右が久保信人さん、中央後列には丹羽薫さん、小野雅弘さんも


世界中で渡航禁止
旅行業のダメージは計り知れない

———まずはここ1〜2ヶ月の状況を教えていただけますか。

久保:緊急事態宣言が発令される前日、4月6日から会社は完全休業に入りました。企業が政府からの支援を受けるためには完全に営業を停止しなければならないからです。

 3月後半に数多くの国に渡航制限がかかり、海外からも来日できなくなりました。この時点で実質、旅行業は完全にストップし、私たちの業務はこれまで申し込んでいただいた方への返金作業のみになっていました。

 ご存じのように旅行業のダメージは甚大で、航空会社、現地オペレーター、観光バス、ホテルなどは限りなく無収入に近くなり、設備維持費や人件費、参加費の返金といった支出だけの状態が続いています。

 これまでも地震や台風、テロなどさまざまな事態が起こりましたが、全世界の移動がほぼ完全に停止したのは、第二次世界大戦時を含めて初めてといってもいいのではないでしょうか。渡航が出来ないわけですから、そのなかで解決策を見いだすことはとても難しいといえます。 

———海外レースの状況を伺えますか。

久保:ほとんどが中止、延期になっています。まず4月中旬にクロアチアで開催予定だった「100マイルオブイストリア」は9月開催に変更されました。5月中旬に開催予定だった「ウルトラトレイルオーストラリア」は10月中旬に変更になっています。参加者は変更レースに出場するか、出場権を来年に持ち越すか選べる形になっています。

 毎年5月下旬〜6月初旬に開催されていた「ウルトラトレイルニューカレドニア」は、一度8月への延期がアナウンスされましたが、結局中止になりました。毎年7月最初の満月の日に開催される「アンドラウルトラトレイル」は2021年への開催延期が決まりました。

 フィールズオンアースがオフィシャルツアーオペレーターを担っているUTMBは、5月中に開催可否が最終決定されることになっています。

———UTMB開催地のシャモニーはどのような様子なのでしょう。

久保:シャモニーではホテルなどの宿泊施設は3月からクローズしています。そのため、観光業に携わる人ちは生活が成り立たない状況です。町にはまったく人が歩いていません。フランスでは買い物などの外出にも許可証が必要なほど厳しく行動が制限されていますから、トレイルランナーや自転車競技のアスリートなどは家の中や庭で長い距離を走ったりしています。

 シャモニーは観光業で支えられている町なので、状況は日本以上に厳しく、地元の人たちはできることならUTMBを開催してほしいと望んでいます。ただUTMBが開催されたとしても、日本やアジア諸国など新型コロナウイルス感染拡大地からの渡航が許されるか、選手が参加できるかは未知数です。飛行機が飛ばない、入国制限されるといった可能性もあると思います。

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2019年UTMBツアーの様子


起こりえないことが起こったいま
もっとも大事なのは体力

———フィールズオンアースのスタッフの皆さんはどのように過ごしておられるのですか。

久保:いまは全員が自宅待機です。うちの会社では副業も認められているので、アルバイトをするなどの選択肢はあります。

———まだ感染収束の見通しがきかない状況で、こうした質問は答えにくいかもしれませんが、今後どのような活動の可能性があるとお考えですか。

久保:ウルトラランナーの飯野航さんが昨年入社したので、こんな時期でも何かできることはないかと二人で話しています。当初は小さなイベントなども考えていましたが、いまはとにかく人が集まるシーンは避けなければいけないので、なかなか難しいですね。オンライン上のキャンペーンなどは試しています。

———では久保さんご自身はいまの状況をどう捉えておられますか。

久保:すごく大変な状況ではあるのですが、ある意味、人としては貴重な経験をしているなとも感じています。世界中が同じ困難に立ち向かうというのは、戦争時でもなかったことだと思います。この後、世の中が根本的に変わっても不思議ではないほどの出来事です。

 実際、欧州の高級ブランドがマスクや人工呼吸器などを自社の製造ラインでつくり始めていますよね。それくらい大きなことなのだと受け止めています。 

———終息した後、トレイルランやレースの世界はどうなると思いますか。

久保:コロナウイルスの感染が落ち着いて海外レースが開催できるようになったとしても、これまでのようには出場できなくなるかもしれませんね。まず趣味にかけるお金も変わってくると思いますし、果たして海外に行きたいと思えるかどうか。そこまで経済が回復するには、時間が必要な気がします。一方で、日本国内でのレジャー産業は、海外より先に復活するのではと思います。

 海外レースそのものに関していえば、まず大会を支えるスポンサー企業の体力がどれほど残っているかにかかってくるでしょう。観光業で成り立っている地域ではスポンサー企業を見つけることが一番のネックで、そこが難しいところだと思います。ヨーロッパはスポーツに特化したスポーツエージェントが多いんですね。彼らは今後、僕ら以上に大変になってくるのだろうなと感じています。

———最後に、外出自粛が続いている現在の日常生活についてお聞かせください。

久保:いまだからできることを自宅でやりたいと思っています。まずは断捨離。いまの会社に入って4年間、海外出張続きで、家のなかに不要なものがたまっているんです。主に自転車競技時代のマニアックなパーツなんですけれど、そうしたものをメルカリなどに出品しています。あとはDIYですね。最近は経年劣化していた部屋のドアを塗り替えました。

 息抜きは近所のランニングと自転車。体力はすべての基本だと思っていますから、この機会にしっかり体を鍛えて、仕事を再開する日に備えたいと思っています。最近感じるのは、リモートワークなどで日中ランニングをする人が首都圏には激増しているということ。そうした姿を見ていると、時間はかかるかもしれませんが、収束後には確実にマラソン大会に参加してみたり、トレイルランに興味を抱いたりする人は増えるように思えます。 
 長期的視点ではトレイルランが盛んになる可能性も感じているんです。いかにそこまで耐えられるのかが、最大の課題と考えています。  

■フィールズオンアース
https://www.fields-on-earth.com
■久保信人さんの活動についてはこちらの記事でご紹介
山物語を紡ぐ人びとvol.24


Interview:2020/4/11
Text:Yumiko Chiba