vol.6〜 斉藤亮さん×山田琢也さん(NPO法人インサイドアウトスキークラブ)/ 後編

『山物語を紡ぐ人びと』vol.6〜 斉藤亮さん×山田琢也さん(NPO法人インサイドアウトスキークラブ)後編

前編はこちらから。

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ことあるごとに集まり、飲み会を開くメンバーたち。気の置けない仲間は、
いくつになってもかけがえのない存在だ。山田琢也さんのご実家
『スポーツハイムアルプ』にて。
Photo by Sho Fujimaki

 

地元への想いで繋がった仲間たち

—–クロスカントリースキー(以下、XCスキー)というひとつの共通点を持ち、なおかつ異なる競技で活躍するトップアスリートがNPO法人として集結し、地元の活性化や次世代に向けた取り組みを行っているというのは非常に珍しいと思います。設立当初、何かイメージモデルのようなものはあったのですか。
斉藤:特にはなかったですね。もともとイベントや人と触れあうのが好きだったんですよ。運営していると大変なこともありますが、XCスキーを共通点としながら、同じ地域の仲間でひとつの物事に取り組めることが本当に楽しい。自分たちが楽しいというのが、一番の原動力になっている気がします。

——現在、何名くらいの方が所属しているのですか。
斉藤:運営に携わっているメンバー、NPO登録をしている正会員は僕らを入れて22名ほどです。そのほか、一般会員さんも含めると30名くらいになります。
藤巻:うちは、ちょっと面白い集まり方をしているんですよ。会員になるにはアスリートでなくても構わないんです。僕もカメラマンですし(笑)。会員さんの中には、ノルディックウィーキングに親しむ60歳代の方もいらっしゃいます。
斉藤:飯山のために何かしたい、例えばスポーツを通じてライフスタイルを提案したい、イベントを開催したい、競技力の向上に貢献したいなど、地元への熱い想いがあればどんな活動をしていても構わないんです。その部分がなかなか伝わらないのが、もどかしいところなのですが。

 

今年で8回目を迎えた『たかやしろトレイルランニングレース』

——インサイドアウトスキークラブ(以下、インサイドアウト)の活動として、『たかやしろトレイルランニングレース』は象徴的なイベントのひとつだと思います。XCスキーに打ち込む子どもさんや学生さんが多数参加すると伺っていますが。
斉藤:そもそもの始まりは、2007年に琢也さんの呼びかけで行った『果たし状・高社山トレイルランニングレース』というイベントでした。インサイドアウト設立前のことです。現在と同じメンバーで何もかも手づくりで開催し、中学生から大人まで約80名が参加してくれました。
山田:その後、参加者が年々増えていき、いまは450名ほどになっています。

12kmの距離を中学生から大人までが走る『高社山トレイルランレース』。スタート&ゴール会場は、 『スポーツハイムアルプ』の前。           Photo by Sho Fujimaki

高社山を往復する12kmの距離を、中学生から大人までが一斉に走る『高社山トレイルランレース』。スタート&ゴールは『スポーツハイムアルプ』前のゲレンデ。
Photo by Sho Fujimaki

 

斉藤:参加者の方が増えている理由としては、やはり琢也さんをはじめとするインサイドアウトのトレイルランナーたちの活躍が、大きく影響していると思います。毎週、全国各地でトレイルランレースが開催されている中で、このイベントを選んで下さるリピーターが増えているのは非常に嬉しいこと。高社山の魅力が少しずつ伝わり始めたのかなとも感じています。
山田:ほかのレースと違うのは、中学生や高校生の参加者が多いことです。全体の1/3ほどを占め、ほとんどがXCスキーの選手。一般の選手と一緒に走るのですが、大人は口を揃えて「子どもたち速い!」と言いますね(笑)。一昨年から小学生の部もスタートし、上は60歳代まで幅広い年齢層の方にご参加いただいています。こういうレースはおそらく、僕らが初めてじゃないかと思います。

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高社山山頂

高社山ゲレンデ

Photo by Sho Fujimaki

 
——それぞれ競技生活やお仕事がある中で、ご自分たちだけでレースを運営するのは大変な労力ではないですか。
山田:そうでもないですよ。コース整備も自分たちで行っています。結構、手際よく(笑)
斉藤:毎年少しずつブラッシュアップしてきていて、誰もがやるべきことをわかっているから、準備は意外に早いですね。
山田:全員がすごく働くんです。ひとり何役もこなすマルチプレーヤー。

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高社スタッフ

Photo by Sho Fujimaki

斉藤:ボランティアのスタッフの方々にも恵まれていて、人手が足りなくなることもなく、いい形で運営できていますね。

 

僕らが世界で吸収してきたことを、子どもたちに伝えたい

——『高社山』と書いて “たかやしろ” と “こうしゃさん” の二つの呼び名があるのですか。
山田:地元では二つの呼び名があります。“たかやしろ” の方が響きがよいのでレース名にしましたが、僕らは “こうしゃさん” と呼ぶ方が多いかな。
斉藤:そうだね。この辺りでは、子どもの頃からトレッキングやトレーニングで訪れる非常に身近な山なんですよ。
山田:山の麓にスキー場やXCスキーのコースがありますしね。三角形をした独立峰なので、みんな日頃から目にしている山です。

——参加者の顔ぶれはいかがですか。
斉藤:やはり地元の方が多いですね。奥信濃が好きで毎年来てくださる他県のリピーターもいらっしゃいます。
山田:実はタイム計測を手動とエクセルで管理しているので、人数はそろそろ限界に来ているんです。もう、あまり増やせない(笑)。
斉藤:仲間に “計測スペシャリスト” がいるんですね。レースでは短い登りでタイムを測る『スプリント賞』や、山頂までの時間を競う『山岳賞』なども用意していて、これが実に面白い(笑)。
山田:地元に “スーパー高校生” がいて、大人が本気を出しても勝てないんですよ(笑)。XCスキーの選手って本当にヤバイくらい速いんです。下りになると、テクニックがなくてダメなんですけれどね。これまで12kmの大会レコードは松本大選手の記録だったのですが、今年ついに地元の高校3年生がそのタイムを破りました。高2の時に国体で優勝しているXCスキー選手です。

——賞状や楯も、味があって魅力的ですね。
山田:賞状は内山和紙という木島平特産の上質な和紙でつくっています。楯も同じく地元企業の『夢やガラス工房』でつくっていただいています。学生時代から強い選手は記念品をたくさんもらい慣れていて、段ボールに入れたままだったりするんですね。思い出に残るもの、飾っておきたくなるものにしたくて、こんな形になりました。

地元企業の『夢やガラス工房』で制作したオリジナルの楯。 ほのぼのした雰囲気がいい。Photo by Sho Fujimaki

地元企業の『夢やガラス工房』の協力により制作しているオリジナルの楯。 ほのぼのとした雰囲気がいい。                Photo by Sho Fujimaki

 

——このレースには、どのような思いが込められているのでしょうか。
山田:都会のような遊びはできないけれど、ここでしかできないことがある。僕らが競技者として地元からいろいろな世界へ出て行って吸収してきたことを、子どもたちに教えるのではなくて感じてもらえればと思っています。それと同時に、亮のようにXCスキー選手だったけれどもマウンテンバイクの選手で頑張っていたりとか、僕のようにXCスキーからトレイルランニングというセカンドキャリアに移行したりといったさまざまな競技生活の可能性があることも知ってほしい。僕らの上の世代には全くなかった姿です。僕らを見た中高生が、XCスキー競技をきっかけにどんどん夢を広げてくれたらと思うんです。
斉藤:いろんな選択肢があることを知って欲しいですね。僕らの学生時代はスキー選手はスキーしか選べなかったけれど、いまはそうじゃない。少なからず柔軟な雰囲気に変わってきていますし、自分たちの活動にも少しずつ興味を持ってもらえるようになってきています。

 

ノルディックウォーキングは、もはや日常風景

——レース以外の活動についても、教えていただけますか。
斉藤:年間を通して、毎週月曜日の夜にノルディックウォーキングのサークル活動を実施しています。市内のアーケード街を45分くらい歩く講習会です。これは2008年の設立当初から続けていて、今年で7年目を迎えました。インサイドアウトのメンバーはみんなノルディックウォーキングの講師の資格を持っていて、毎回2名がローテーションで担当しています。
藤巻:飯山ではノルディックウォーキングは日常風景になってきていますね。
山田:それと平行して、JNFA(日本ノルディックフィットネス協会)の指定団体として、ノルディックウォーキングの指導者養成講座も開催しています。
斉藤:3年ほど前からは、ノルディックダンスも始めましたし。
——ノルディックダンスとは?
斉藤:長野市のエアロビクスの先生にご協力いただいて制作した、ノルディックポールを使って行うダンスです。冬場、雪のために外でノルディックウォーキングができない時にも体を動かせるようにとつくりました。
山田:そのほか委託授業として、東京の小学生にスノーシューやXCスキーの指導を行ったり、夏と冬にキッズキャンプを開催したり。これはたき火やラフティングなどの自然体験をしてもらうイベントで、人気があります。

 

 大学生に向けた強化合宿も

斉藤:競技志向の活動としては、大学生向けのXCスキーのサマーキャンプを実施しています。プログラム構成や技術指導も含めて4日間の強化合宿です。あと、秋にはマウンテンバイクのトレイルツアーを僕が主催して行っています。マウンテンバイクの乗り方の基本講習から始めて、ちょっとしたダートコースを走り、その後はみんなでバーベキュー。マウンテンバイクを持っていてもアスファルトしか走ったことがない方って多いんですよね。せっかくならオフロードで楽しんでもらいたいと思って企画しました。
藤巻:ノルディックダッシュのイベントも開催していますよね。あと、灯籠祭りや恵比須講といった地域のお祭りでは、メンバーが使わなくなったアウトドアウェアやギアのフリーマーケットを行っていて、これがすごく好評なんです。
斉藤:これらのイベント運営は、ノルディックウォーキング班、MTB班、トレイルランニング班、XCスキー班に分かれて班ごとに企画を出し、そこにみんなで協力していく形をとっています。頻繁には会えないので、SNSでやりとりして情報共有しています。公式HPの中にリレーブログを設置して、インサイドアウト内外の活動を自由に発信できるようにしているのですが、実はこれ、各自が1ヶ月に3回記事をアップするのがノルマ。一回減ったら500円の罰金なんです。今年は1万8000円くらい溜まって、すべてみんなの飲み代になりました(笑)。

『2014ジャパンシリーズ第3戦富士見パノラマ大会』での表彰式のシーン。

『2014ジャパンシリーズ第3戦富士見パノラマ大会』での表彰式のシーン。

 

孤独な競技生活の中で見つけた、大切なもの

——みなさん、何足ものわらじを履いていらして忙しいはずなのに、実に楽しそうですね。
斉藤:一年の中でややこしいことはわずか、それ以外は基本的に楽しいことばかりです。飯山を地元とする僕たちにしかできなこと、山の楽しみ方をみなさんに広く知ってもらいたい。いろんな人と出会えることも、この活動の喜びのひとつですね。僕らにとってプラスになることが多いのです。

——常に厳しい競技生活を送っているからこそ、インサイドアウトの活動では楽しいことを仕掛けていきたいという想いがあるのでしょうか。
斉藤:競技生活でも仕事でも、僕らは意外に孤独なんです。だから共通点のある仲間たちと一緒に何かを作り上げることは嬉しいですし、すでに僕らのライフスタイルの一部になっています。ストイックな競技人生の中で、仲間の存在にすごく励まされている。いろいろなモチベーションに繋がっていて、よい相乗効果が生まれています。

僕自身、今年は琢也さんのスカイランニング世界選手権出場にもすごく刺激をもらいました。有志で集まった仲間だからこそ意味がある。「誰それが頑張ったから、とりあえず集まって飲もう」とか気軽な感じで、よくみんなで飲むんですよ。それがいい。それぞれフィールドが違うから、活動の手みやげを持参して飲める。大人になっても気の合う仲間がいるというのは、すごく幸せだし貴重なことだと思っています。

2014年6月、フランス・シャモニーで開催されたスカイランニング世界選手権80k。山田さんはスタート直後の転倒により、左足首を怪我したものの、激痛を乗り越えて見事28位でゴールした。     Photo by Sho Fujmaki

2014年6月、フランス・シャモニーで開催されたスカイランニング世界選手権80k。山田さんはスタート直後の転倒により左足首を怪我したものの、激痛を乗り越えて見事28位でゴールした。                  Photo by Sho Fujmaki

 

——ジャパンシリーズや海外遠征など緊張を強いられる時間が多い中で、斉藤さんはインサイドアウトの代表を務めておられます。お忙しい合間を縫って広く目配りし、心の余裕を保っていらっしゃるのがすごいなと思うのですが。
斉藤:心の余裕がないと、考え方も思考力もすごく小さくなってしまうんですよね。そういう状態は競技にとってもよくないと、過去を振り返って感じています。もちろん緩みすぎてもダメですけれど、心に余裕があるといろいろ面白い発想が生まれてきますよね。僕にとっては、インサイドアウトの活動があることが、よいサイクルになっている気がします。

 

連綿と続くアスリートの水脈を絶やさないために

——世代を超えて楽しめるトレイルランニングレースの開催や後進の育成など、次世代に向けた取り組みは、設立当初から考えていたのですか。
斉藤:自分たちが中高生の時にも、先輩たちが同じように時間を割いて指導してくれました。そういう姿を見てきたので、育ててもらった地域に貢献したいという想いがあり、当たり前のこととして行っている気がします。有望な高校生が地元から輩出されれば嬉しいですからね。琢也さんも山室も、いまクロスカントリーの分野で地域の専任コーチを担当していて、子どもたちと触れあう機会が多くなっています。今年も飯山からXCスキーの全日本のチャンピオンが生まれましたが、それはこの地域では決して珍しいことではない、ごく自然のことなんですよ。脈々と続く飯山のXCスキーの歴史の中で、僕らが裏方として関われる機会があることに喜びも感じています。

——最後に、インサイドアウトスキークラブのこれからの展望を聞かせてください。
山田:インサイドアウトのスタイルは、今後も大きくは変わらないと思います。自分たちが出来る範囲のことをしていく。いま行っていることを拡大するのではなく、継続していくことに意味があるのではないかと考えています。
斉藤:10年20年続けていくことが、僕たちらしさなのかもしれませんね。そして、よりクオリティを上げていくことに力を注いでいきたいです。飯山にはアウトドアスポーツに最高のフィールドが整っています。2015年の春には北陸新幹線の駅も開業しますし、ますます飯山の魅力、北信濃の魅力を僕らが発信していかなければとも感じています。そして僕ら自身、これから年齢を重ねても、変わらずにやんちゃでいたいですね。僕らが楽しくなければ、みなさんにもきっと楽しんでもらえないと思うんです(笑)。

Special thanks to Sho Fujimaki

 

【Profile】
斉藤亮さん
1980年、長野県飯山市生まれ。NPO法人インサイドアウトスキークラブ代表。マウンテンバイク選手、クロスカントリースキー選手。飯山南高校時代は2年でインターハイリレー優勝、3年で個人戦2位、リレーで2位入賞。卒業後は陸上自衛隊冬期競技教育隊に所属し、ワールドカップを転戦する。全日本優勝、FISランキング国内4位,
2009年の長野かがやき国体で優勝。2007年よりMTBのクロスカントリーレースに本格参戦し、2012年JCF MTBジャパンシリーズ総合優勝、2013年シリーズ2連覇を達成、2014年全日本選手権3位。ブリヂストンアンカーサイクリングチーム所属。

山田琢也さん
1978年、長野県木島平村生まれ。トレイルランナー、クロスカントリー選手、スキーアーチェリー選手。飯山南高校、同志社大学でクロスカントリースキー選手として活躍。インカレで個人戦6位、スプリントリレーで優勝。その後、スキーアーチェリーの選手としてドイツへ留学。2007年ロシアで行われた世界選手権にて金メダルを獲得する。帰国後、トレイルランニングレースに本格参戦。2010年日本山岳耐久レース3位、2011年斑尾フォレストトレイル50km優勝、2012年美ヶ原トレイルランinながわ70k優勝など。2014年冬季国体クロスカントリースキー3位、フランス・シャモニーで開催されたスカイランニング世界選手権80kに出場。

 

NPO法人インサイドアウトスキークラブ 公式サイト
http://www.jf-d.com/~insideout/
たかやしろトレイルランニングレース
http://www.jf-d.com/~insideout/ktr/
木島平の宿 スポーツハイムアルプ(撮影協力)
http://www.pal.kijimadaira.jp/~alp/