いつかは日本の“ドロミテ”に! 第1回『ZAO SKYRUNNING』

ポテンシャルの高さが際立つ
「蔵王」という場所

「山と温泉」の組み合わせは、日本の山岳文化の大きな魅力のひとつだ。およそ1900年の歴史をもつ蔵王温泉は、山形県の南東部に位置し、蔵王連峰の西の麓にある。複数ある源泉はいずれも強酸性の泉質で、湯の花が浮かぶ白濁の湯は国内屈指の古湯として人々に愛され続けてきた。夏は登山、冬はスキーやスノーボードを楽しむ人たちで賑わう人気のエリアだ。

その蔵王を舞台に、9月3日(土)〜4日(日)『ZAO SKYRUNNING 2016』が開催された。スタート地点は硫黄の香り漂う温泉街。旅館や土産物屋が軒を連ねる街の真ん中にスタート&ゴール会場が設けられたこのレースでは、日本選手はもとより、海外から訪れる選手も「日本らしさ」を満喫できる演出が随所に施されている。

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山頂からは火口湖の御釜が見える。 Photo by Nagi Murofushi

初日は距離4.7km/標高差900mを駆け上がるバーティカルレース、二日目は距離22km/累積標高1450m、麓から蔵王連峰・刈田岳にある馬の背までを往復するスカイレースが実施された。

両カテゴリーともに2016年スカイランニング日本選手権として位置づけられているほか、本大会は来年度のスカイランニングアジア選手権の招致候補レースともなっている。国内に生まれつつある数々のスカイランニングレースの中でも、これから大きな成長が期待される大会といえるだろう。

バーティカルでは宮原徹選手(滝ヶ原自衛隊)と吉住友里選手が優勝。スカイレースでは松本翔選手と高村貴子選手が優勝を果たした。

 

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上から宮原徹選手、吉住友理選手、高村貴子選手、松本翔選手。 Photo by Koichi Iwasa / DogsorCaravan

コースはスキーのゲレンデを多用しているが、山頂では火山湖の御釜を臨み、雄大な山容を楽しむことができる。途中には神社の鳥居や参道の階段もあり、情緒溢れるコース設定だ。

また、ロープーウェイの駅と一部重なることから、家族や仲間が選手と同じ風景の中で一体感を味わいながら応援することもできる。さまざまなリスクヘッジという意味でも、ロープーウェイの存在は大きい。

大会プロデューサーの松本大さん、そして日本スカイランニング協会を運営し、自らも選手として出走した長谷川香奈子さんに寄稿していただいた。

 

 

ーーーーー 寄稿 / 松本 大 ーーーーー

欧州のスカイランニングを父に
日本の山岳を母にして産声を上げた
「ZAO SKYRUNNING」

街の中心から最高峰の頂へ、どれだけ早く駆け登ることができるだろうか。どれだけ早く戻ってくることができるだろうか。普段から山を見上げる者であれば誰もが思うであろう自然な問いから生まれたのがスカイランニングというスポーツだ。

なので、コースもシンプルだ。あちこちへ寄り道はしない。距離稼ぎでグルグル回すこともしない。山頂への最短時間の直登こそスカイランニングの美学である。そして、そのシンプルさこそが人々の心を打ち、世界中でスカイランニングの大きなムーブメントが起きつつある。

東北日本を代表する山岳リゾートである蔵王山や蔵王温泉の人々との出会いは2年前。これはスカイランニングの神様がセッティングしてくれた必然の流れだったのかもしれない。蔵王山の雄大さ、温泉の素晴らしさ、大きすぎず小さすぎない温泉街、スキーリゾートであるが故の充実したロープウェー網。初めて蔵王温泉の地を訪れたとき、ここが日本を代表するスカイランニング・フィールドへと成長することは間違いないと確信した。「ZAO SKYRUNNING」のプロデュースが決定した際に私が肝に銘じたこと。それは、日本が世界に誇るスカイランニングの大会にするということだ。そのために意識したことは4点ある。

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Photo by Nagi Murofushi / WILLE Marketing Co., Ltd.

 

テーマの明確さや運営を意識した舞台づくり

ひとつは、完全なるスカイランニングの大会にするための「街の中心から最高峰の頂へ」というテーマの明確さだ。会場は温泉の香りが漂う温泉街の中心にこだわった。蔵王温泉の守り神である須川神社の鳥居を抜けて山に入る。蔵王山のシンボルである火口湖のお釜を眺め、最高峰の熊野岳の頂を踏む。ゴールも鳥居を抜けてのゴール。欧州のスカイランニングが街の中心の教会前が会場になっているのと同じように、街の中心広場と神社を起点にしたのである。だだっ広い駐車場でもスキー場でもなく、中心街の狭い広場を会場にすること。それは、地に足着いた大会にするために欠かせないエッセンスである。

2つめには、効率的な運営がしやすいコース。コースはロープウェー沿いに設定して、エイドステーションやチェックポイントもロープウェーの駅周辺を利用させていただいた。そして、行き帰りが重複するコースに設定した。往復コースは多くのランニング競技では敬遠される形なのかもしれないが、ひとつの山を舞台に開催されるスカイランニングにとっては美しいコースの形である。登りの行きと下りの帰りでは、景色の見え方もスピードも全く違うからだ。効率的な運営がしやすいということは、万が一、怪我人が出た際にも対処できる余力を運営側に生じさせる。往復であるから立ち寄れるエイドステーションの数も倍の数となる。山岳スポーツに絶対的な安全は無いが、危険を最大限減らしての運営をすることができる。

3つめには、地元の蔵王温泉の皆さんが快く運営に携わっていただけるようなコースとスケジュールの設定だ。朝早すぎず夕方には全てが終わるイベントにする。「楽しかった、また来年も手伝ってもいいかな」と誰もが思えるくらいの常識的な時間のスケジュールにするということだ。昼夜を問わないような長時間のイベントは相当の熱意か経済的な恩恵がないと続かない。イベントが続かなければスポーツが文化になることはない。見習ったのは「富士登山競走」だ。富士登山競走は7時にスタートして正午にはレースが終了する。明るいうちにすべてが終わる。だからこそ70年近い歴史を刻んできたのだ。本大会が短期的なブームではなく文化になるには、男子トップ選手が2時間代という時間設定は欠かせないと私は確信している。

4つめには、エンターテイメント性の追求だ。これはイタリアで開催されている「ドロミテスカイレース」を手本にした。民族的な衣装の女性たちが踊り、ノリの良い洋楽が流れビーム光線を使ったセレモニー、MCがガンガンに場を盛り上げるエイドステーション。これを日本流・蔵王流にアレンジした。山形のアイドルグループが歌って踊り、太鼓や尺八をベースとした和風戦闘曲が流れ、山形の野菜が置かれたエイドステーションでMCが場を盛り上げる。応援の観客はロープウェーを乗り継いで合計8回ほど移動観戦することもできる。観客も参加者に負けない緊張感と高揚感に包まれ、レースを形作る主役になるのだ。

他にも、スタートエリアを区切っての必携装備の点検、動画によるブリーフィングなど、この国で初めての試みがいくつもあった。何もかもが新しいスタイルであったので、スタッフも参加者も消化しきれなかった部分もあるかもしれない。しかし、スカイランニングは何かが違うということに気づいた方も多かったのではないだろうか。第1回目を開催することで、課題を明確にみつけることができた。第2回目はさらに洗練することができるだろう。

 

日本からアジアへ。アジアから世界へ

人口も経済も縮小している日本の「地方」がアジアや世界を引き寄せる「中心」となる。「地方」で暮らしている人々が誇りをもつきっかけをプロデュースする。それこそ、山間地出身者である私自身の生き甲斐であり、スカイランニングというスポーツの大きな可能性であると考えている。

2016年 9月
松本 大

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 Photo by Nagi Murofushi

 

続いて、長谷川香奈子さんの寄稿を。