『トレイルランニングの未来を考える全国会議』レポート#01

会議全体図

 

河口湖で開催された『トレイルランニングの未来を考える全国会議』

UTMF終了後の4月28日(月)、山梨県・河口湖円形ホールにて『トレイルランニングの未来を考える全国会議』が開催されました。

本会議は、以下のアスリートたちが発起人となっています。

石川弘樹、礒村真介、井原知一、今泉奈緒美、江田良子、大内直樹、大杉哲也、小川壮太、小川比登美、
奥宮俊祐、鏑木毅(代表)、小出徹、菊嶋啓、近藤敬仁、西城克俊、佐藤光子、鈴木博子、相馬剛、
松永紘明、松本大、宮地藤雄、望月将悟、山田琢也、山本健一、山屋光司、横山峰弘、渡邊千春
(2014年3月17日現在、敬称略)

当日は約120名が参加。
(大会主催者/約75名、スポーツ製品およびメディア関係者/約30名、有識者およびアスリート/約15名)

まず発起人代表である鏑木毅さんから会議を開催した理由、トレイルランニングを取り巻く現状についての説明があり、その後、4名がプレゼンテーションを実施。約2時間半に渡って進められました。
司会進行は、本会議事務局を担当する岩佐幸一さん(トレイルランニングサイトDocsorCaravan代表)です。

本会議では参加者にも広い情報発信を求めていることから、ここに当日のレポートを掲載します。
鏑木毅さんのお話、プレゼンテーション、ならびに配布された資料とパワーポイント画像等をもとに内容を要約。登壇者のプロフィールを追加し、一部わかりにくい用語等に注釈や補足を加えました。

 

1.鏑木毅さん 〜トレイルランニングの現状と問題提起

この会議を開いた理由

現在、トレイルランニングの競技人口は10数万人、あるいはそれ以上といわれている。
18年前に自分がトレイルランニングを始めた当時は、ハイカーから「山は走るものじゃない」と言葉をかけられたりもしたが、徐々に「頑張ってください」「私も大会に出ました」といった声をいただくようになった。
多くの先輩方の力があって、トレイルランニングの現在がある。

ただここ1〜2年、トレイルランニングに対して嫌悪感を抱く人が増えていることを肌感覚として実感しており、非常に危惧している。メディアを通しての批判にもさらされている。
特に行政機関、官庁や自治体の方々の中に“トレイルランニングアレルギー”のようなものが生じている。
法規制をかけるような動きもあり、危機的な状況だと考えている。

今回アスリートが発起人となったのは、競技者としてだけでなく、自然や山、このスポーツを強く愛する者だから。

このような危機的な状況は、トレイルランイングの歴史でも初めてのこと。これまでは普及に力を注いできたが、これからは一般社会に定着するような活動もしなければならない。

ネガティブな話が多くなると思うが、一方では地域振興として注目されているという事実もある。
将来的な展開を見据えつつ、何をすべきかを考えていきたい。
今日がトレイルランニングの大きなターニングポイントになればと思う。

鏑木さん開会の言葉

すべてのトレイルランナーに呼びかけたいこと

ルールやマナーは時と場合によって変わるが、いつも心に留めておきたいことがある。
ただ闇雲にルールでがんじがらめにはしたくない。広い価値観を共有できるバックグラウンドがあること、自由なスタイルで遊べることが、このスポーツの何よりの魅力だ。

しかし、決められた場所で行うスポーツと違い、いろいろな方が行動する中で行うスポーツであることをしっかりと認識しなければいけない。

1)トレイルを共有する人たちに敬意をはらう。ハイカーの横を通る時には歩く、声をかける。ゴミを落とさない。自然環境を守るなど。

2)トレイルでの経験から学ぶ。山で行うスポーツとしての知識や情報、装備、判断能力を身につける。混雑時にはハイキングに切り替える心の余裕を持つ。

3)トレイルランの楽しさを周囲に伝えよう。マナーやルールを守れば自由で楽しいスポーツ。タイムだけではない楽しみ方がある。

大会主催者は、5方面への配慮を

大会は大きな情報発信力を持っているので、ぜひその力を活かしてほしい。

・大会の楽しみ方は自由で創造的。ロゲイニング、耐久レース、食や歴史を楽しむなどもある。
・主催する側と参加する側では役割が異なる。主催者には配慮と責任が求められる。
・登山道やハイキングコース、一般道を数時間、断続的に参加者が通過することへの配慮が必要。

●大会主催者に求められる役割は5つある。

1)参加者に対して
・イベントのルールや内容を明らかにして、適切な参加資格を設ける必要がある。
・安全管理に対する責任。

2)地域に対して
・地元の方々に大会についてきちんと説明を行う。
・トレイルの状況について情報を集め、無理のないコース設定を行う。他のイベントや季節行事などを考慮。
(ex.UTMFでは開催年の前年の同日、同時間帯の地域の状況を調査した)

3)社会に対して
・トレイルや施設の管理者、関係当局に法で定められた許可申請を行う。個人や組合所有の土地にも許可をとること。

4)自然環境に対して
・動植物の保護。日本のトレイルは腐葉土の体積した土壌で、ある種のダメージを受けやすい。ダメージを与えないようなコース設定、人数制限、大会前後の環境調査が必要。環境アセスメントの専門家に頼むのは費用がかかるが、写真を撮る、トレイル幅の変化を記録するなど、自分たちでできる範囲でも行うことが大切。行政機関に提出を求められた際に提示できるように。
(ex.UTMFでは環境アセスメントに力を入れている。その費用はひとつのレースが開催できるほど)

5)トレイルランニング・コミュニティに対して
・大会はルールやマナー、情報を伝える大切な機会。それを意識して運営することが重要。

(参加者とのQ&A)

Q:UTMFにおける環境アセスメントの活動内容を聞かせてほしい。

A:本日は手元に資料がないので、あまり具体的なことは説明しきれないが…。とりわけ環境のダメージが予想されるポイントに対して、大会前後でトレイル幅に変化はあったか、植生への影響はどうかなど、細かく調査している。今年は専門家に調査をお願いした。まだ結果は出ていないが、過去2回の結果では、やはり2000名が走るレースなので全くダメージがないということはない。しかし自然には回復力があり、その回復力の範疇には十分あるだろうという評価を出し、所定の官庁に提出している。

 

 

2.松本大さん〜 ランニング形式の登山としてのマインド

・松本大さんプロフィール
日本におけるスカイランニングの第一人者。2013年「JAPAN SKYRUNNING ASSOCIATION」を発足、代表を務める。
HP:http://daimatsumoto.comJSA公式サイト:http://skyrunning.jp

トレイルランニングに対する自分の意識は?

トレイルランニングとは、日本語でいえば “山岳ランニング” 。欧米では組織化、競技化が進んでいる。国際スカイランニング連盟(ISA)の日本支部という形で、昨年、国内のアスリートを中心にジャパン・スカイランニング・アソシエーションを設立した。

トレイルランニングとは、トレイルとランニングを組み合わせた言葉。
私たちはいま、トレイルランニングをどのような気持ち(マインド)で楽しんでいるのか。

トレイルランイング(トレイルもランニングも同等の意識)
トレイルランニング(トレイルの意識が大きめ)
・トレイルランニング(ランニングの意識が大きめ)

松本大さん

ぜひみなさんには、”トレイルで行うスポーツだ” という意識で山に入ってもらいたい。ランニングだという気持ちがメインになってはいけない。
現在、日本にはトレイルランニングの専用コースはほとんどなく、登山者やハイカーと同じフィールドを使っている。トレイルを共有している意識で、柔軟な対応が必要だ。

本来なら「ランニングスタイルの登山をするんだ」というマインドで山に入ってほしいのだが、トレイルランニングを始めたばかりの人の中には、ロードランニングから移行してきた人もいる。自分が主催する講習会を見ていても思うが、そういう人たちはロードの意識のままトレイルに入っているため、歩くのがじれったい。

もちろん、トレイルに入るという意識が高くてもゴミを落としてしまう人も中にはいるだろう。でもそれは一般の登山者の中にもいる。やはりロードランニングの意識を持ったまま山に入ることで、問題になることが多いのではないかと思う。

“ランニング” という響きが目立ち過ぎる

現在、トレイルランニングという言葉は「ランニング」という言葉が目立ちすぎる。しかし本来は、ハイキングや登山の快速バージョンだと思う。「ファストトレッキング」という表現の方が合っているのではないか。

メディアや大会のキャッチフレーズで「ランニング」という言葉を多用せず、「これはランニング形式の登山だ」とか「ランニング形式のハイキングだ」と表現してもらえると、現状のトレイルランニングへの誤解が減るのではと思う。
「ランニングスタイルの〜」という言葉を使うようになっていけたらと思う。

スカイランニングから学ぶべきことがある

スイスに本部をもつ国際スカイランニング連盟(ISF)には、現在、35の国や地域の加盟団体が所属している。

スカイランニングはスピード登山が進化してできたという歴史を持つ。さまざまな国で競技化が進んでおり、オリンピック競技に加わることを目指している。
スカイランニングは登山の延長として発展してきた経緯から、国際的なルールが確立されている。そこから学ぶべき点は多いのではないか。

トレイルランニングのレースにはいろいろな形態があっていい。ヨーロッパではウルトラトレイル(100マイル)とは別にスタンダードなレースとして、40km、50kmが存在する。

確立された競技ルール(一部を紹介)

スカイランニングでは競技ルールがしっかりと確立されているので、ここで一部をご紹介する。

1)コースマーキング
主催者は生物分解性の標識(蛍光色の旗や看板)を安全のために設置し、レース後は速やかに撤去しなくてはならない。
※参加者が道を外すということは絶対にあってはならないという認識。約50mごとにマーキングすることで、参加者のみならず一般登山者にもレースの開催がわかる。

2)安全
主催者は、救護等の専門スタッフとともに、競技会に関わる全ての人の安全を保障しなくてはならない。
※十分な経験と知識のあるスタッフを十分に揃えて、初めて競技が開催できる。

3)競技者の必携品
防雨ジャケット、トレイルランニングシューズ、靴下は必携(その他は場合に応じて)。
※山岳における死因は低体温症が多い。ジャケットが命を救うという認識が必要。

4)エイドステーション
5kmごと、もしくは標高差500mごとに設置をして、十分な水分や食料を供給しなくてはならない。

スカイランナーはなぜ軽装で走れるのか

スカイランナーが軽装で走ることができる理由は、チェックポイントやエイドの充実にある。たとえばスペインで行われたレースの場合、全長42kmのコースに関門が16箇所あり、エイドステーションも同数(水のみも含めて)あった。

日本ではウルトラトレイルの情報が先に入ってきたことから、他の国際大会に比べてエイドが少ないイメージがある。もちろん、そういったレース運営もひとつの方法であり、選手は食料を背負って走ればよいわけだが、それだけがレースのスタイルではない。
ヨーロッパのスタンダードはエイドが充実したレースであり、いまの若いアスリートたちもそれを求めている。目指すのは、体ひとつで出走できるレース。そういった安全なレースが日本にあってもよいのではないかと思う。

参加者に「背負わせるモノが多い」ということは、ある意味、大会側が十分な安全対策をとりきれないために、参加者へ「リスクを背負わせている」といえるのではないか。

トレイルランニングの未来像

トレイルランニングにはさまざまな形がある。
たとえば、「スカイスピード」は標高差100mの山を一気に登る種目。ヨーロッパではポピュラーな種目で、オリンピック競技を目指している。小学生や中学生でも走ることができ、運営もしやすい。

国内でも子どもたちの育成に注目し始めており、新潟県では現役のアスリートが普及に力を入れている。

海外では視覚障害者も標高差1000m以上の本格的なスカイレースに出場している。障害のある方でも楽しめるのがトレイルランニングだと思う。

子どもからお年寄りまで、誰もが楽しめる敷居の低いスポーツにしていきたい。また若者や子どもたちが本気で目指せるスポーツ、日常的に部活に組み込まれるようなスポーツになればと思っている。

(参考資料:練習会で参加者に配布している安全チェックリストの内容)
1)体の準備
・病気やケガがないこと
・睡眠や食事、水分がしっかりとれていること
2)心の準備
・天気予報の確認
・ルート情報とスケジュールの把握
・エスケープルートの把握
・家族などの他者へスケジュールの告知
・主催者などに携帯番号、緊急連絡先を伝達
3)物の準備
・ジャケット、携帯電話、非常食、地図、現金、食料、水分、ヘッドライト、エマージェンシーシート