トレイルランナー上田瑠偉の11年の軌跡をフォトグラファー藤巻翔が切り取った写真集『TRAILRUNNER RUYUEDA』

誰にとってもそうであるように、この一瞬一瞬も二度とは訪れない

トレイルランニングの壮大な世界観を長年伝え続けているフォトグラファー藤巻翔氏が、日本のトレイルランニング界を牽引するアスリート上田瑠偉選手を追った写真集が発売された。

藤巻氏とは度々、仕事でご一緒してきた。個人的には、とても芸術家肌なフォトグラファーだなと感じている。どんな撮影現場でも、経験に裏打ちされた技術と表現力で完成度の高い作品を生み出すことはもはや誰もが知るところだが、さらに彼自身が「この人だ」と定め、作品づくりとして追い続けるアスリートへの情熱は群を抜く。

上田瑠偉選手ももちろんそのひとりだ。

2014年、21歳にしてハセツネで「7時間01分13秒」というコースレコードをたたき出すなど、若くして成功を手に入れた上田選手はおそらくこれまで、トップアスリートとして孤独を感じることも多かっただろう。いまでこそ同世代で世界を目指す仲間は多いが、その頃の彼は次世代のトレイルランニングシーンを引っ張る役割を周囲からの大きな期待とともに一人で担っていた。

そんな上田選手の覚悟と孤独をもっとも近くで感じ、心を寄せてきたのが藤巻氏だ。二人の情熱が共鳴し合って、この写真集は生まれた。

ここに記録された一瞬はこのときだけのもので、同じ瞬間は二度とは訪れない。

ものづくりをしていると、おおげさではなく、ごくごく希に「あのときは神が下りてきたのかもしれない」と感じずにはおられない瞬間がある。すべてがなにかで推し量られたかのようにピタッと狂いなく一点に留まる瞬間。二人にとってのそんな瞬間のいくつかも、この写真集にはしっかりと収められている。

文を寄せているのは、同じく日本のトレイルランシーンをターザンという雑誌を通して牽引し続けてきた編集者の内坂庸夫氏。内坂氏ならではのリズム感溢れる文体が、さらに写真集の温度を高めている。デザインは井口創氏が手がけた。

次の時代にも手渡していきたい、そんな写真集だ。

⚫︎写真集『TRAILRUNNER RUYUEDA』
https://ruyueda.stores.jp/items/6606c46bb4563809f637eb2b