トレイルランニング人口拡大を受けて、環境省が指針を発表
2月15日(日)、東京・新宿御苑インフォメーションセンターにて、環境省自然環境局国立公園課による『国立公園におけるトレイルランニング大会等の取扱いに関する説明会』が開催されました。
冒頭、自然環境国立公園課長の岡本光之氏より、本会の開催について説明がありました。
「近年トレイルランニングが盛んになり、大会に関する相談も多くなってきた。一方で、自然環境に与える影響への懸念や、他の登山道の利用者の安全や快適さを妨げてはいないかという声もあがっている。そこで今回、基本的な方針を整理した。
豊かな自然を後世に引き継ぐことは、わたしたち世代の責務。数百年から数千年かけて数十センチしか形成されない山岳土壌は、通常の登山活動においても影響を受けることがあり、登山道に浸食や拡幅が起こってしまう場所もある。取り返しのつかない影響は絶対に避けなければいけない一方で、美しい空気の中で自然を感じながら走ることの素晴らしさは多くの人々に支持されており、それがトレイルランニングの人気につながっている。
トレイルランニングと一般登山やハイキング、自然環境の保全は必ず折り合い点があると考えている。これまで山岳関係者やトレイルランニング関係者、登山道管理の専門家、各行政機関の方々から意見を聞いてきた。今日ははより多くの方々から意見をうかがい、今後の参考にしたい」。
国立公園はただ守るべきものではなく、さまざまな利用者に楽しんでもらうものであり、そのために今回の指針を発表したとのこと。トレイルランニング大会を開催する場合は、大会を企画する段階から関係各所が互いに話し合い、軋轢を生じさせない解決策を見つけ出してほしいと述べています。
国立公園内におけるコース設定、自然環境や動植物への影響、他の登山利用者への影響について記されているほか、主催者、参加者、応援者それぞれの配慮事項、遵守事項についても明記されています。
以下は、当日配布された資料全文と主な質疑応答です。少し長いですが、ぜひご覧ください。
(正式な文書については、環境省より3月に発表される予定です)
『国立公園内におけるトレイルランニング大会等の取扱いについて(概要)』
1.作成の背景・目的
●狭隘な登山道等で、多人数で競争するトレイルランニング大会等(以下トレラン大会等)」を開催することによる、登山道とその周辺の自然環境への影響、公園利用者の安全で快適な利用の妨げが懸念されている。
●国立公園の適正な管理の観点から、国立公園内で開催されるトレラン大会等の取扱いをとりまとめることにより、自然環境の保全及び快適な公園利用環境の確保を図る。
2.取扱いの前提となる事実関係等
●国立公園内の歩道(登山道等)は、地域特性に応じた徒歩利用を目的に公園計画に位置付け、管理者によって維持管理されており、トレラン大会等の集中的な走行利用は想定して計画・管理されていない。
●トレラン大会等による周辺の自然環境への影響、歩道の維持管理上の問題、他の公園利用者(登山者等)との接触事故、静穏の妨げ、混雑等が懸念されており、既に個々の現場では関係者による調整が行われているが、統一的な指針がないため、関係者間で軋轢が生じることがある。
3.取扱いの基本的な考え方
●今回の整理は、国立公園内で開催される、トレラン大会等を対象として扱う。
●地方環境事務所等では、本取扱いに基づき、各国立公園の自然環境や利用状況等の特性を踏まえ、実際のトレイルランニング大会の主催者等からの相談に対応するとともに、関連する許認可の運用等に関する細部解釈の指針として活用する。また、地方環境事務所において国立公園ごとに作成される「国立公園管理運営計画」の作成や改訂の際には、トレラン大会等のルートや期間等についての詳細な指導事項や地方自治体との連携等について、記載することとする。
●さらに、都道府県にもお知らせし、国定公園や都道府県立自然公園の中で開催されるトレラン大会等の取扱方針の検討の参考にしていただく。
4.取扱い方針
●コース設定に関する基本的な考え方
・国立公園の中でも厳正な保護を図っている特別保護地区及び第1種特別地域、それに準ずる自然環境をもつ場所は、原則回避。
・ただし、部分的に通過する際に、植生帯への踏み出しや土壌浸食の防止措置が講じられている等により自然環境等への影響が発生しないと考えられる場合には、地域の状況に応じ判断。
●コース設定の際の配慮事項
以下の場所については、コース設定しない。
・保全対象として重要な自然環境である場所(湿原や泥濘が多く存在する湿潤な環境、高山植物群落等)
・歩道の複線化や拡幅が懸念される場所
・既に洗掘を受けている場所等、負荷に対して脆弱な環境である
・崩落や落石のおそれのあるガレ場や、傾斜地で狭隘な路線区間
●トレラン大会等の開催にあたっての配慮事項
・トレラン大会等の開催については、他の利用者(登山者等)が多い路線や混雑期を回避する。
・開催日時、コース、他の利用者(登山者等)への留意事項をウェブ等により、十分に周知する。
・トレラン大会等の主催者、参加者及び後援者が遵守すべきルールを設定し、公園利用の安全性及び快適性を確保する。
●その他の配慮事項
・専門家等から意見聴取し、野生動植物への影響の回避に努める。
・歩道管理者、土地所有者、関係地元自治体等と十分な事前調整を行う。
●モニタリングの実施
トレラン大会等の開催による自然環境等への影響について、把握している情報に応じたモニタリングを大会主催者により実施する。
・大会主催者の事前調査により、モニタリング対象及び地点を抽出する。
・大会主催者は、事前事後の写真撮影などにより影響を評価する。
●モニタリングにより、万一環境の改変等が確認された場合は、大会主催者による原状回復を行う。
5.大会等の開催・運営にあたり求められるその他の配慮事項の例
●主催者に求められる配慮事項の例
・地域特性を踏まえ、参加人数制限を検討すること。
・密集するスタート付近は、林道等自然環境への影響の少ない場所とすること。
・適切な数のトイレを配置し、適切な管理を行うこと。
・参加者、応援者の靴底洗浄をしてもらうこと。
・住宅地や希少な野生生物の生息地では応援させないこと。
・自然環境の保全のための監視員を設けること。
・事故等が発生しやすい場所をコースとして設定しないこと。
・競技中に緊急事態があった場合、速やかな対応ができる体制とすること。
・参加者、応援者、その他の利用者が混乱を生じさせないように案内表示等を設置すること。
・歩道管理者立ち会い等による安全点検等を事前に行うこと。
・悪天候などに対して、自然環境保全や安全確保のための中止が速やかにできる体制とすること。
・参加者や応援者に、大会運営上の自然環境や安全確保への配慮事項を周知徹底させること。
・大会等スタッフであることが分かるようにすること。
・ゼッケン等を着用することにより、参加者であることが分かるようにすること。
・ウェブ、利用拠点、交通機関等において、大会の開催日時、コース、留意事項、連絡先について、十分な周知を行うこと。
・主催者、参加者等の責任を明確化すること。
・事前調査を行い、十分に収集した情報をもとに、コース選定すること。
・関係行政機関等に対する諸手続等は、参加者募集開始前に十分な期日の余裕をもって終わらせておくこと。
・参加者、応援者に、所定の場所でトイレをすることを周知すること。
●参加者に求められる遵守事項の例
・レース中においても、他の公園利用者への配慮を心掛けること(特にすれ違い時など)
・コースから外れないこと。
・トイレは所定の場所で済ますこと。
・ゴミは持ち帰るか、主催者が準備する所定の場所に捨てること。
・ストックはキャップを装着し、使用可能場所のみで使用すること。
・他の公園利用者とのすれ違いでは、他の利用者を優先させること。
・集団、並列走行をしないこと。
・ゼッケン等を着用し、参加者であることが分かるようにすること。
●応援者に求められる遵守事項の例
・主催者のルールを遵守すること。
・レース中においても、他の公園利用者への配慮を心掛けること。
・歩道外への立ち入りはしないこと。
・トイレは所定の場所で済ますこと。
・ゴミは持ち帰るか、主催者が準備する所定の場所に捨てること。
以上
質疑応答の主な内容
Q)大会を開催する判断基準について具体的な内容はあるのか。3つうかがいたい。
1.地域は普通地域(国立公園内の地種区分のひとつ。そのほか、特別保護地区、第1種〜第3種特別地域がある)も含めるのか?
2.自然環境等への影響について、判断基準は?
3.他の利用者の安全確保の判断基準は?
A)
1.保全対象として重要な自然環境である場所、歩道の複線化や拡幅が懸念される場所、既に先掘を受けている場所等、負荷に対して脆弱な環境である場所、崩落や落成のおそれのあるガレ場や、傾斜地で狭隘な路線区間があれば、普通地域であっても避けてほしい。
2と3については、多様な事例があるため、具体的な判断基準はここでは示していない。それぞれの地域の状況に応じた対応が必要かと思う。
Q)
1.環境省はトレイルランニングをレースと捉えているのか?
2.参加者の人数についてはどう考えているか。
3.モニタリングのポイントは主催者が決めるのか。どう決めていくのか。
A)
1.トレイルランニング=レースとは捉えていない。トレイルランニングを競技と定義する動きもあり、そういった動きと連携しながら進めていきたい。
2.人数については、各地域の自然環境や利用実況を踏まえて考えることが必要なので、ここでは明記していない。他の利用者の快適で安全な環境を妨げないことが重要だと考えている。
3.モニタリングポイントについては、開催地域の自然環境や大会内容に合わせてモニタリングポイントや項目を設定することが大事だと考えている。土壌、動植物、水質や景観の変化、大会の規模や内容、地域の状況によって選ぶ必要がある。ポイントも関係各所と調整しながら決定するのが望ましい。
Q)
1.環境省としてレースの様式を決めるのか?
2.関連する許認可については?
A)
1.環境省では大会の様式などを定める予定はない。広い意味での取扱いについて、環境省としての考え方を示して、各地域で必要に応じて細かい点を決めていければと思う。
2.たとえば自然公園内に案内表示やトイレを設置したり、ロープをはったりといった工作物を配する場合の許諾などがある。
Q)
1.今後、このガイドラインを指針として打ち出すのか?
2.このガイドラインに準じた配慮を行えば、大会を開催してもよいという意味か?
3.直接土壌に影響があることもあれば、5年後10年後に影響がでることもある。年数経過については、どう考えているか?
A)
1.あらためて整理した上で、文書としてまとめ、地方環境事務所が運用できるよう発信していく。
2.環境省としては大会を排除するということではなく、公園の利用のあり方や自然環境を考慮した上で、トレイルランニング大会がよりよいものになればと考えている。
3.経過調査もケースバイケースだと考えている。こういった科学的調査はまだ不十分であるので、今後、モニタリング結果を集めて政策に役立てたいという思いもある。
Q)
現在の国立公園はトレイルランニング大会のような集中利用を想定していないということだが、今後の公園計画ではトレイルランニングのような新しい動きにどう対応していくのか。
A)
これまでは、大勢が同時に走ることを想定せずに計画設定していた。国立公園の計画の中には自転車道もある、トレイルランニングにも望ましい道があるだろう。国立公園を今後どう管理していくか、地元団体、自治体とともに国立公園のビジョンをつくっている。優れた自然をいかに傷つけずに、いろいろな楽しみ方を持つ人たちに利用してもらうか、検討の余地がある。トレイルランニングに積極的に取り組んでいる自治体などでは、問題が生じないように快適に走れる場所を開拓する努力をしているケースもある。
国立公園はただ守るだけの場所ではなく、さまざまな楽しみ方の人たちに楽しんでもらう場所だと考えている。自然の中で走りたいという人が増えているのは事実なので、それに対応する国立公園像を目指すのも私たちの役割のひとつ。
バランスをとりながら、さまざまな意見を聞いて一つひとつ解決すべき課題だと考えている。
Q)
自分は国営公園の環境保全にとりくんでいるが、登山者の中ではトレイルランニングに反対する声が多い。国立公園以外にも多種の動植物がいる。それらにも、もっと目を向けて欲しい。狭いトレイルを走らないで、車道など広い道を走ればいいのではないか?
A)
国立公園以外にも同様の問題が起こりうる可能性はあるだろう。今回の指針が、他の地域の大会にも波及することを期待している。情報を蓄積しながら、改善を進めていく。(※国営公園は国が設置した公園だが、特定の管理者が管理している )
※注釈・参考事項
【日本国内の国立公園・31箇所】
1.利尻礼文サロベツ国立公園
2.知床国立公園
3.阿寒国立公園
4.釧路湿原国立公園
5.大雪山国立公園
6.支笏洞爺国立公園
7.十和田八幡平国立公園
8.三陸復興国立公園
9.磐梯朝日国立公園
10.日光国立公園
11.尾瀬国立公園
12.上信越高原国立公園
13.秩父多摩甲斐国立公園
14.小笠原国立公園
15.富士箱根伊豆国立公園
16.中部山岳国立公園
17.南アルプス国立公園
18.白山国立公園
19.吉野熊野国立公園
20.伊勢志摩国立公園
21.山陰海岸国立公園
22.足摺宇和海国立公園
23.瀬戸内海国立公園
24.大山隠岐公立公園
25.西海国立公園
26.雲仙天草国立公園
27.阿蘇くじゅう国立公園
28.霧島錦江国立公園
29.屋久島国立公園
30.西表石垣国立公園
31.慶良間諸島国立公園
【国立公園の管理】
複数県にまたがる国立公園も多く、全国7つの地区ブロックに分けられ、11の地方環境事務所等によって管理されている。さらにその中に自然保護管事務所が存在する。大会を開催する際の相談は、該当するエリアの自然保護管事務所が窓口になる。環境省の「地方環境事務所」のHPを見て確認。
環境省 地方環境事務所(全国7ブロック)
http://www.env.go.jp/region/
環境省ホームページ
http://www.env.go.jp
国立公園ホームページ
http://www.env.go.jp/park/