『トレイルランニングの未来を考える会議』レポート#02。
鏑木毅さん、松本大さんに続いて、宮地由文さんと松井裕美さんのプレゼンテーションです。
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3.宮地由文さん 〜日本におけるランニングの方向性とは
・宮地由文さんプロフィール
(公益社団法人)日本山岳協会 競技部競技委員会 トレイルランニング小委員会 http://www.jma-sangaku.or.jp/cominfo/
(一般財団法人)日本山岳スポーツ協会
日本山岳耐久レース長谷川恒男CUP 実行委員長 http://www.hasetsune.com
かつて国体に山岳縦走競技があった
本日はトレイルランニングの競技委員会、小委員会からという形で提議する。
日本においてナショナルセンターをどのように設立するか。競技としてどのような方向性を示していくのか。国際的な競技の動きの中に、日本はどう関わっていくのか。子どもからトップアスリートまでどう保障していくのか。これらを日本体育協会(※1)などで、どう提議するのか。
本日はこれらを含めてお話ししたい。
私たちは22年前にハセツネカップ(※2)を創設したが、それは国体の選手を育成することが一つの目的だった。ところが世界でも日本でも、トレイルランニングがブームになりかけた時、国体から縦走競技がなくなってしまった(※3)。その時期、私たちは以下の内容を日本山岳協会に提起した。
【2008年、日本山岳協会に提起】
1)トレイルランニングの定義および、規定の創設。
2)トレイルランニングの用語の統一。
3)トレイルランニング大会の基準づくり。(大会規模、人数、シングルトラックの整備のランクづけ等)
4)公認トレラン大会の認定業務。
5)選手の管理、登録制。
6)公認審判員の創出。
7)トレラン選手育成と強化
8)トレイルランニング公認指導者・競技力向上、指導員養成カリキュラムの作成
9)日本代表の選定業務と公認
10)国体山岳競技としてトレイルランニング種目再設のための研究
11)選手安全確保(保険加入など)
12)トレイルランニングのナショナルセンターの創設
日本山岳協会とトレイルランニングとの関係
山岳競技は約30年前から国民体育大会の競技として存在していた。国体は各県で主催し、選手を輩出してきたという実績もある。この国体の山岳競技をもとに現在のトレイルランニングがあるということは、まぎれもない事実だと思っている。
日本山岳協会は縦走競技、クライミング、踏査に選手を送り出していた。(いまはクライミングとボルダリングのみ実施)ところが、国体から山岳競技がなくなった途端に、日山協は手を引いた。今後どうサポートしていくかが大きな課題だ。
【参考資料:国体の山岳競技について】
・国民体育大会山岳競技 → 国体において、天皇杯得点が得られる正式競技
・登攀種目+踏査種目+縦走種目の登山道をトレイルランニングするタイムレース
・縦走とクライミング(登攀から改名)種目のみへ変更
・2008年、縦走が廃止、ボルダリングが加わりフリークライミングに属する種目のみ
・(公益)日本山岳協会が協議運営
・各都道府県で選抜された2名の合計タイムによって各県の順位が決定
・各選手が規定の重量(17kg)のザックを背負う
・毎年、団体開催県が違うため、コース(山)も毎年変わる
など…
ナショナルセンターの必要性
例えばヨーロッパで開催されているUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)は、フランスのアスリート連盟がバックアップしている。日本の場合は、ナショナルセンターがない状態で競技が進められており、一本化したい。
現在、日本のスポーツ組織は、国際オリンピック委員会の中に日本体育協会があり、その下に各都道府県の体育協会があって、それぞれの団体が所属している。
私はトライアスロンも手がけているが、これも新しいスポーツで、やっと国体の正式種目になった。オリンピック競技であるにも関わらず、東京においても競技団体は昨年認められたばかり。日本には古い体質があるが、これを突破しない限り、国際的な競技として国内で確立していかない。
ナショナルセンター設立については、まずは日本山岳協会に位置づけて、文科省の系列に入っていくのがよいと考えている。トップアスリートが海外へ行く場合、選手として国が補助しなければいけない。国が補助して、トレイルランニングというスポーツをスポーツ行政の中に位置づけることが必要だ。
国際的には国際山岳協会連合(UIA)があり、クライミング、山岳スキー、アイスクライミング、スキー選手権などを開催している。スカイランニングレースも、ここに加盟している。
また一昨年、ヨーロッパで国際トレイルランニング協会(ITRA)が発足した。オリンピック競技への参加を進めており、世界ランク化も検討している。今後は協力しながら、国際的なルールづくりができればと考えている。
トレイルランニングの指針づくり
トレイルランニングの組織をつくり、方向性を定めていくためには、ある程度の指針が必要。しかし、がんじがらめでは全体を把握しにくい。
国際トレイルランニング協会で出している指針を、日本用に要約したものがあり、日山協のトレイルランニング委員会から全国の山岳連盟に提議している。
例えばトライアスロンも基本ルールがあるが、自然を相手にするスポーツなので、各地域に合わせてローカルルールを設けるなど自由度を持たせている。先駆的な競技団体からノウハウを学んで、トレイルランニングの競技化を進めていきたい。
障害者もともに楽しめるように
来年度、スポーツ庁が発足することは間違いないだろう。2020年の東京オリンピック、パラリンピックを目指して、各競技団体は障害をもった人も同じスポーツを行えるようにしようというのが国の目指す方向性だと思う。
ハセツネも今年から障害者の方々とどう共に楽しんでいくかを検討しており、2020年までに推進すべきことと考えている。
『日本トレイルランニング連絡協議会(仮称)』の立ち上げ
以上のことを踏まえ、7月26日、『日本トレイルランニング連絡協議会(仮称)』を発足する。日体協のスポーツ指導者制度をトレイルランニングにも入れて、教えるための基本的な指針をつくることも必要だろう。みなさんとともに規範づくりを考えていきたい。
( 参加者とのQ&A )
Q:『トレイルランニング連絡協議会』の具体的な内容を教えてほしい。
A:まずは指針づくり。国際的ルールを日本のルールとしてすりあわせる。また全体的な組織をどうするのかを提議する予定。いきなり上から押しつけるのではなく、あくまでこの連絡協議会は検討課題だと考えている。本来は各市町村から組織化して上に上げていくものだが、これだけ各地域で大会や運動が進められているので、まずは一堂に会してどうするかと話すくらいでいいと思う。
【 注釈 】
※1)日本体育協会
公益財団法人 日本体育協会(通称:日体協)。オリンピック大会参加を契機をして明治44年(1911年)に設立された。「国民スポーツの振興」と「国際講義力の向上」を目的とする。http://www.japan-sports.or.jp
※2)ハセツネ
日本山岳耐久レース長谷川恒男CUPの略称
※3)国民体育大会 山岳競技
かつては登攀(クライミング)のほか、踏査(荷重を背負って行うチーム制オリエンテーリング)、縦走(荷重を背負って行う山岳マラソン)があった。2002年に踏査が廃止。2008年に縦走が廃止され、ボルダリングが加わった。現在はクライミングとボルダリングのみ。
4.松井裕美さん 〜地域の仲間とつくり上げた大会
・松井裕美さんプロフィール
『スリーピークス八ヶ岳トレイル大会』の実行委員長。2013年6月に山梨県北杜市にて第一回目目を開催。地域色豊かでホスピタリティに溢れる大会運営が、多くのトレイルランナーから支持されている。http://trail38.com
子どもたちに地元への誇りを持ってもらいたい
私たちの大会は、いろいろなご縁があってできた大会。本日はそのあたりをご紹介したい。
大会を開催した目的は “町おこし” ではなく、この大会をきっかけとして地域の人たち、特に子どもたちに地域の可能性を感じてほしい、誇りを持ってほしいという想いがあったから。
観光地である山梨県北杜市は、6月に観光収入が落ち込む。私たちの想いと、何かで町を盛り上げたいという地元の要望がマッチしたことで開催が決まった。
実行委員は、現在約20名。全員の方向性を定めるため、どんなことを目指し、何がしたいのかをまとめている。それが「ぼくたちの“想い”」。
1)地域と
・地元の子どもの目標となるような大会
・地元の人の誇りになるような大会
・走ることに縁のない方々にも興味をもってもらえる大会
・地域の声に近づける大会・・・・
2)山と
・すれちがうハイカーにランナーの爽やかさが伝わる大会
・山に関わるすべての人たちを受け入れたい、その人たちをひきつける引力でありたい
・みんなの自然に対する思いを繋ぐことのできる大会
・豊かな自然こそがランナーを勇気づけ、大会を成功させる要因であることを示す・・・
3)ランナーへ
・前三ッ峠の足音を聞いてほしい
・五感をよろこばせる大会
・家に帰ってから八ヶ岳の話をしてほしい
・走って、笑って、喜んで、泣いてほしい・・・
4)ぼくらは
・できるだけ多くの人とハイタッチしたい
・威張らない、えらそうではない、おごらない大会
・選手の声に寄り添える大会
・「どうぞ」と「ありがとう」をいえる大会・・・
仲間が仲間を呼んでいった
通常は行政やイベント会社、メーカーがスポンサーとなって実行委員会が発足するが、私たちにはつてがなかったので順序が逆。実行委員会を発足してスポンサーを探し、行政やイベント会社、メーカーへと繋いでいった。
第一回目の運営費はほぼすべて、エントリー費でまかなっている。
まず私が小山田さんからトレイルランの話を聞いて、大会を開催してみたいと発案。いろいろな人に声をかけて、20名弱の実行委員のメンバーが集まった。
この中でトレイルランを知っているのは私と小山田さんのみ。しかし、ウェブデザインや町おこし、観光宿泊、山岳会、雑誌編集、市役所で地域活性を手がける、イベント運営など、各自が得意分野を持っていた。
↓
自分は得意分野がなく、人を巻き込んだ責任もあるため、会社を辞めて覚悟を示した。
各地のレースで運営のノウハウを学ぶ
足りない知識を補うために積極的にレースに参加。(ハセツネ、UTMF、戸隠、斑尾、伊豆など)
出られない場合はスタッフとして参加した。(武田の杜、ハセツネなど)
【参考にした主な大会とその内容】
武田の杜(山梨県):大会開催の流れ、エイド、コース、スタッフ配置、会場設営
ハセツネ(東京都):コース整備、マニュアル、ボランティアの取りまとめ、運営全般
UTMF(山梨県&静岡県):コース整備、マーキング、医療体制、安全対策、運営全般
できるだけお金をかけずに
助成金は20万円のみ。
スポンサーを募ったが、当初全く見つからずに苦戦する。
熱い想いを語って協力者を募ったり、実行委員が各自の得意分野で声がけを行ったりするうちに、協賛金は難しいが物品提供ならと協力者が増えていった。
↓
ステージ、スタート&ゴールゲート、ボランティアスタッフ、直通バス、飲料、賞品、エイドの食料などを無償で提供を受ける。飲料は大塚製薬が提供。そのほかメーカーは、ベスパ、A&F、ハニースティンガー、アメアスポーツなど。
ボランティアもすべて無償でお願いした。山梨県の大学ではボランティアに参加すると単位がもらえることから、それらを活用。
駐車場、アーチ、テント、AED、案内看板、机、仮説トイレ、音響、無線などは無償、あるいは格安でレンタルした。レース案内板、コース案内板、印刷物、HPなどは手づくり。コース設定、宣伝活動、マニュアル作成も自分たちで行った。
意識したのは「顔が見える大会」。第一回目ということもあり、誰が運営しているのか顔が見えるようにし、SNSやサイトを活用して頻繁に情報発信を行った。
スリーピークスらしさをどう出すか
標高が高いところでの開催、八ヶ岳横断歩道を活用するといった特徴を打ち出す。累積標高は3100m。1000mからスタートで、2500がピーク。楽にはたどり着けないが、ここでしか見られない景色を味わえるようにした。
留意したのは、ハイカーとの不要なぶつかりを避けること。マイナーな登山道を使ったほか、上級者と初級者でコースを分けて、混雑や渋滞をなくした。
そのほか、選手同士のぶつかり合いを避けるような時間設定、もともとある広い防火帯や乗馬エンデュランスコースの利用、ランナーの走りやすさを重視したコースレイアウトなど。
スタッフの配置と安全対策
けが人が一人でも出たら次回開催はないという覚悟で安全面を重視。
エイド3箇所に各15〜20名、分岐誘導は約40箇所に各2〜4名のスタッフを配置。そのほか、マーシャルランナー15名、スイーパー8名、ドクターランナー1名、医師3名、看護師・医療従事者10名を配置した。
ボランティア説明会にも力を入れ、3〜4回実施。約140ページからなるマニュアルを作成した。
八ヶ岳の “おもてなし”
さまざまなイベントを同時開催している。ファンランイベント「カラフルラン」、ウォークイベント「フットパス」、山梨全域の農産物や工芸品を紹介する「+マルシェ」など。グリーンピークスプロジェクトではエントリーフィーのうち300円を八ヶ岳の環境団体に寄付。
地元レストランに協力してもらい、大会前日でも胃の負担のかからない食事を提供。選手にも地域にも優しい大会を目指した。
( 参加者とのQ&A )
Q:ここまでの大会がなぜ出来たのか、一番の理由は?
A:トレイルランナーたちは礼儀正しく、強いハートを持っていることを一生懸命に伝えていった。支えてくれる人たちのおかげで開催できたと思っている。
Q:今後の展開は?
A:人数を増やそうとは思っていない。山の耐久性やトレイルの混雑を考えると、ショート23kmで350名、ロング38kmで400名が限界。できるだけ長く地域の人たちに愛される大会にしたい。ランナーだけ、地域の方だけ見ていてはダメ。両方が楽しいと思える状況で末永く続けていきたい。今後、小さくてもいいから毎年新しいことを加えていきたい。今年はフォトロゲイニングを実施。いずれ、子どもむけレースも行いたい。