信仰の道を辿る 〜『身延山 七面山 修行走』が開催

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スタートして間もなく、久遠寺の三門をくぐり抜けるトップ選手たち。

身延山久遠寺を舞台に繰り広げられる大会

11月30日(日)、山梨県身延山にて第二回『身延山 七面山 修行走』が開催された。

総距離36km、累積標高差2,700mを制限時間8時間で走り抜くロングコースは、身延町をスタートして、身延山の奥の院 思親閣(1153m)、七面山 敬慎院(1714m)、感井坊(922m)と3つの山を巡り、再び麓に下りる。大会アドバイザーの石川弘樹さんが「ひたすら上り、ひたすら下る非常にタフなコース」と語る厳しい道のりだ。

本大会の舞台である身延山久遠寺は、日蓮宗の総本山。1274年(文永11年)から9年間、日蓮聖人が法華経の読誦と門弟の教導を行った場所だ。1281年(弘安4年)に本格的な堂宇が建立され、「身延山 久遠寺」と名づけられた。

『身延往還』と呼ばれる山道

身延山から七面山まで続く参道は、古くから『身延往還』という名称で親しまれていたという。とくに交通の便が整う前、江戸時代から昭和初期にかけては、山道を歩いて参拝する人々で大いに賑わいを見せた。

実はこの地は、日蓮聖人が移り住む以前から『甲斐修験道』として修行の山の一つに数えられていた。現在も山岳宗教の香りを色濃く残している。

荘厳な空気の中、修行の道へ

早朝、参加者たちは門前町をスタートし、久遠寺の三門をくぐって山へと入っていく。辺りには、ぴりりと引き締まった清々しい空気が流れている。

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歴史が刻まれた久遠寺の三門。

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レース中、何人かの僧侶をお見かけした。中には行脚姿のお坊さんも。
見事な走りっぷりに驚かされる。

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残り約4.8km地点。ロングコースをトップで駆け下りてきたのは、
山梨県出身の小川壮太選手。

優勝者に贈られた、一幅の掛軸

ショートコース1位から3位、ロングコースの1位から3位の入賞者には、大会アドバイザーの石川弘樹さんから賞品が授与された。

さらにロングコース男子トップの小川壮太さんと女子トップの上宮逸子さんには、早川町在住の日本画家・映水さんが描いた『修行走』の山々の掛軸が贈られた。

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心身の浄化としての、山走り

本大会を発案した七面山・敬慎院執事の小松祐嗣さんは、ご自身も山を走る “トレイルランナー” だ。歴史ある『身延往還』の山々を、現代の人たちにも広く知ってもらいたいと、大会を企画した。

小松さんにとって山を走ることは修行のひとつであり、極めて自然な行為なのだという。「山を走ることは心を浄化すること。日本では古くから ”行” とされてきました。かつての行者たちは、一本下駄で走っていたといいます」。

大会ではコースを ”修行道” 、参加者たちの走りを ”修行” と呼んでいる。厳しい道を走り抜き、持てる力を振り絞って山から下りてくると、「ご修行、お疲れさまでした」と精一杯の言葉でねぎらわれる。

この場所で私たちは、山を走ることの意味についてあらためて考えさせられる。

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普段、身延の山々を走る人は非常に少ない。そのため、
大会前の試走も歓迎し、専用の駐車場も設けていた。

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ゴール後は、門前町の女性たちによって豚汁が振る舞われた。
会場近くの宿坊では、着替えや入浴をすることもできる。

とりわけ印象的だったのは、身延町と早川町の皆さんの篤い歓迎ぶりだ。参加者はもちろんのこと、応援の仲間や家族まで、とても温かく迎えられる。

二つの町の人々が一丸となってこの大会を盛り上げていることが、そこかしこから伝わってきた。

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底冷えのする初冬の一日、大会に参加したトレイルランナーたちは、かつてこの身延の山々をひたすら歩き抜いた信仰の人々の想いに触れたに違いない。

仏教の歴史と邂逅する山の旅。実に日本らしい、トレイルランニングのひとつの姿といえるだろう。