白馬発!HUNGERKNOCK ORIGINALS × 三八商店

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霧に包まれたブランド『HUNGERKNOCK ORIGINALS』の発信地へ

ファッションに関心の高いトレイルランナーから熱い支持を集めるブランド『HUNGERKNOCK ORIGINALS(ハンガーノック オリジナルス)』。ブランドを象徴するツバ短めのキャップシリーズは、新デザインがラインアップされる度に、瞬く間に完売してしまう。

その活動はオリジナル商品の制作だけでなく、トレイルランレースのための限定アイテムや、“100miles×100times!”をテーマに挑戦を続けるプロアスリート・井原知一さんとのコラボレーションなどにも広がり、独特の世界観に磨きをかけている。 

その一方で、これまでHUNGERKNOCKの実像は不確かだった。漏れ聞くブランドのバックボーンやつくり手のストーリーはいつも断片的で、どこか散文的。もちろん、それも戦略なのだろうけれど。 

「一体どんな人がつくっているの?」「クロスカントリースキーとの関係は?」「長野県スキー連盟とのコラボって!?」……。

長い間、靄のかかったままだったHUNGERKNOCKの核心に迫るべく、ブランドの発信地である白馬を訪ねた。

実はこの夏、オーナーでありデザイナーでもある松井健太さんは店舗を構えた。

店名はHUNGERKNOCKではなく『三八商店(サンパチショウテン)』。白馬のそば粉と地元野菜を使った「白馬ガレット」や定食などを提供するカフェだ。

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「クロスカントリースキーが好きなんです」

不思議なショップ名「三八商店」の意味は、HPによると「白馬三山の三と、八方の八をとった」とあるが、松井さんはもうひとつのエピソードを明かしてくださった。 

「むかしから仲間にマツケンとよばれていて、マツケンサンバにちなんで、サンバ=三八とつけたんです(笑)」

そんな松井さんは4年前にスポーツ系商社を退職して独立し、奥様の故郷である白馬に移り住んだ。

「東京で働いていた頃から、いつか夫婦で店をやりたいと思っていたんです。白馬はいろいろなアウトドアアクティビティが楽しめる魅力的なフィールドで、店を持つには最高の場所だと思いました」

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HUNGERKNOCKの商品には、ノルディックスキーをモチーフにしたものが多い。聞けば、新潟県南魚沼市で生まれ育った松井さんは、子どもの頃からクロスカントリースキーの競技に取り組んでいたという。

小学校からクラブに入り、全国中学校スキー大会では6位入賞、八海高校3年のときにはインターハイに出場し、クラシカルとスケーティングの両カテゴリーで3位、リレーでも入賞した。かなりの実力だ。

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DSC02689認定資格を有する店だけが提供できる「白馬ガレット」。中央の写真は「キーマカレーのガレット」、下は自家菜園で採れた「夏野菜のガレット」

「クロカンモチーフはHUNGERKNOCK初期の頃から取り入れています。クロスカントリースキーは、いま人口が激減しています。微力ながらも、もっと盛り上げたいという想いがあって、描いています」

高校卒業後はスキー推薦で亜細亜大学に入学。大学卒業後はテレビ制作会社に入社して、日本テレビ系番組「ロンブー龍(ドラゴン)」のADを3年ほど経験した。

しばらく山から遠ざかっていた松井さんが再び山を訪れるようになったのは、番組の企画がきっかけだ。

「ロンドンブーツが山で修行し、滝に打たれる企画があったんです。ADの僕は先回りして山頂に登って準備し、また先回りで下山したんですけれど、そのとき段取りが速かったですね。それで、あれっ、オレ意外と速いなって(笑)」

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190805_Hungerknock_0027_2上)インテリアはノルディックスキーにちなんだものばかり。写真は1975年の「インタースキー日本代表デモンストレーター」の様子。いま見てもウェアのデザインが新鮮 下)ブックエンドもビンディング


その後、アディダスグループに転職する。当初はゴルフを担当していたが、しばらくして、スキー経験を活かせるサロモンの担当に。さらにサロモンブランドがアメアグループに移り、松井さんもアメアに所属することになる。ここで、井原知一さんをはじめ、後の人生で影響を与え合う魅力ある人々と出会った。

仲間うちでつくったキャップが、ブランドに

2008年頃から、サロモンはトレイルランマーケットに注力し始める。松井さんの仕事もシリーズ戦が人気だったOSJの大会を中心に、ブース出店が増えていく。

テストを兼ねてフィールドでギアを試すうち、いつしか松井さん自身もトレイルランの魅力にはまり、ブース出店しながらレースに参戦するようになる。

「その頃、OSJシリーズのスポンサー企業は毎回同じ顔ぶれで、夜になると、みんなで大部屋に泊まってお酒を飲んでいたんです。ブランドの垣根を越えて仲がよかったんですね。同僚だった井原さんがシリーズ全戦に出ることを目標にしていて、一緒に出場した奄美大島の大会では、前日にスーパーでお米を買って塩むすびをつくり、5個ずつ持って走りました。あの頃は二人で足を熟成させながらゴールしました(笑)」

はじめて「HUNGERKNOCK」のロゴを入れたアイテムをつくったのは、それからしばらく経った頃だ。

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最初につくったのは仲間内でかぶるキャップで、既製の帽子にロゴをプリントしただけのもの。勢いでロゴにした「HUNGERKNOCK」は、よくトレイルラン仲間と口にしていた言葉だ。

「レースでハンガーノックにならないように……という自分への戒めみたいな意味も込めてつけました。響きもいいですしね。あまり深く考えずにつけたので、ひょっとしたら別の言葉になっていたかもしれません(笑)」

その後、帽子製作工場との出会いがあり、一からデザインを起こせるようになる。

トレイルランをしていると、登りではキャップのツバが視界に入って邪魔だし、ツバを後に回すと首に当たってしまう。でも日差しや雨は遮りたい。それならツバを短くしたらいいのではと思いつき、『Tsubatan Cap(ツバ短キャップ)』が生まれた。

「最初は自分でツバを切って、切りっぱなしにしてかぶっていたんですけれど、ほつれてくるでしょ。それで原型から手を加えました。それでもまだフィット感がいまひとつだなと思っていたので、次にツバを柔らかくしたんです」

ツバの芯をなくすことで、おでこのRにフィットしやすくなる。さらにツバを綺麗に折り返せるよう、細部を調整していった。

「一見するとわかりにくいんですけれど、トップの深さやメッシュの素材なんかも徐々に変えています。少しずつ進化して、HUNGERKNOCKらしい特徴がでてきた気がしますね」

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190805_Hungerknock_0032_2上)「Tsubatan Cap」。左から右へ、進化の変遷がわかる 下)これまで制作したキャップたち


進化はいまも継続中で、この秋には新バージョンが登場する。

ツバの形状はより丸みを帯び、三日月に近くなる。メッシュ部分の耐久性と肌触りも向上させて、新たにツバの根元にスリットも入れた。スリットが入れることで、ツバを上げたときのキャップの内径サイズが小さくなることを軽減している。

バンフライおじさんとそのファミリー

HUNGERKNOCKのオフィスは店の奥にある。松井さんは店の仕事をこなしながら、ここでひとり作業をしている。

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ガラス扉の先がオフィス。なにやら秘密基地のような佇まい

子どもの頃からマンガを描くのが好きだったが、本格的にデザインに目覚めたのは会社員時代だ。 

「社内のPCにたまたまイラストレーターのソフトが入っていたんです。仕事で使っているうちに、ほぼ独学でデザインを覚えました。その頃の名残りで、いまもペンツールじゃなくてマウスでイラストを描いているんですよ。ラフさというか、ほどよく素人感が滲み出るところが好きで……(笑)」 

そういいながら、マウスでカチカチと音を立てながら松井さんはイラストを描き始めた。早いときには1時間程度でデザインが完成してしまうというが、ときには何ヶ月間も悩むこともある。

「制作時間がかかるのはやはりキャップですね。サンプルを2〜3回つくるんですけれど、1回のサンプルに1ヶ月くらい時間を要しますから」

ブランドの初期から手がけているノルディックスキーのTシャツについて伺ってみた。イラストはシリーズになっている。

「最初につくったのが、クラシカルスキーを描いた『Bahn Frei』(バンフライ)」。ドイツ語で『コースを譲れ!』という意味があります。クラシカルではコースを滑っているとき、追い抜きで声をかけるルールがあるんですね。そのときかける言葉が『バンフライ』。僕らは子どもの頃にそう教わったんだけれど、いまは言い方が違いますね」

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左から「WAX MAN」「BAKKEN RECORD」「SKI TRIP」

松井さんが“バンフライおじさん”と呼ぶこのキャラクターを軸に、ファミリーが展開されている。

2つめにデザインしたのは、ジャンプを描いた『BAKKEN RECORD』のTシャツ。描かれている “バッケンおじさん”は、バンフライおじさんの弟という設定だ。

「ほかに二人の奥さんや子どもも登場しています。ちなみに全日本のスキージャンプ女子チームのためにつくったTシャツには、バッケンおじさんの子どもがジャンプするイラストを描きました」

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190805_Hungerknock_0030_2上)Tシャツのイラスト原画。右下がバンフライおじさん 下)HUNGERKNOCKのアイテムたち。ガラスケース下段にあるのはスキーのニット帽。通称「イカ帽」

選手だけでなくワックスマンまでモチーフにしているところに、深いクロカン愛を感じる。

「名選手の陰には必ず名ワックスマンの存在があります。大会のときには帯同して、夜遅くまでテストして、また塗り直してという作業。最終的にワックスマンは『滑ろ〜』と念じながらワックスをかけるんですよ(笑)。そんな様子を描いてみました」

松井さんとは学生時代からの付き合いというトレイルランナーの山田琢也さんは、クロスカントリースキーヤーであり、実は名ワックスマンでもある。 

このほかに、長野県スキー連盟とのコラボではTシャツやパーカーも制作している。この秋にはスキーヤーの挨拶『SHI HEIL』をモチーフに、限定50台でスキーも発売した。1912年創業のオガサカスキー(長野)のオールランド最上級モデルに、木目調のデザインを施した贅沢なスキー板だ。

心に秘めたテーマがある

井原知一さんが率いる100マイルのグループラン『TDT』は、24時間以内に100マイル完走を目指すというファンラン。羽田をスタートし、多摩リバー50kmを走って東京西部の青梅高水山に登り、折り返してくる。

年一回開催するこのTDTを、松井さんは初期の頃からずっとサポートしてきた。出場者だけが手にすることができるキャップもデザインしている。

「これは僕にとって、最も思い入れのあるキャップなんです。アメア時代に僕と井原さんで考えてつくりました。ベースの形や生地は進化しているんですけれど、大きなデザインは変えていません。TDTは仲間とずっと続けていきたいイベントなので、100年経っても同じデザインのままで行こうと話しています」

そういえばかつて、井原さんも同じ話をしていた。「いつか自分たちが歳を重ねたとき、ボロボロになったキャップをかぶる傍らで、自分の孫くらいの年齢の若者がTDTに参加して、同じキャップをかぶってくれたら嬉しい」と……。

「このキャップが緑色なので、他のHUNGERKNOCKのキャップではグリーンを使うのを控えているんですよ」

190805_Hungerknock_0049_2 左から2つめが「TDT」キャップ。ほかの3つは井原知一さんとのコラボキャップ


仲間との間で偶然のように生まれたHUNGERKNOCKというブランドは、東京から白馬に移ったのちに本格始動し、少しずつ成長してきた。

この地に根を下ろして4年目のいま、またあらたな分岐点を迎えている。

「身につけるものと食、さらにこれからは白馬の魅力も発信していきたい」と松井さんはいう。松井さんは山遊びがとても好きだ。トレイルランや自転車、スキーなどのアクティビティにはまだまだ目に見えない垣根のようなものがあるが、それらが取り払われ、真の意味で“大人の遊び”として成熟していくことを心から願っている。

山をまるごと遊ぶ大人をめざして。

ではそこで、HUNGERKNOCKが果たす役割とは?

「そうですね、デザインするときにはいつも『身につけてテンションがあがるもの』を意識しています。さらに店舗では食を通じて、体の中からよくなって欲しいというテーマがあるんですよ。食べるという字は『人を良くする」と書きますしね。生み出すものをとおして、そんなことがじわっと伝わっていけばいいなと思っています」

クールさとユーモアをさらりと纏ったHUNGERKNOCKというブランド。

「三八商店」という理想の拠点を手にいれたこれからの活動が、楽しみで仕方ない。

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HUNGERKNOCK ORIGINALS 公式サイト
http://hungerknock.thebase.in
三八商店
https://38shoten.wixsite.com/hakuba

Photo:Sho Fujimaki
Text:Yumiko Chiba

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