世界の見え方はどう変わるのか? 僕らのウィズコロナとアフターコロナ
毎年タイム計測を手がけている「信越五岳トレイルランニングレース」100マイルのスタート風景。左手前オレンジ色のウェアを着ているのは計測工房スタッフ
「信越五岳トレイルランニングレース」や「伊豆トレイルジャーニー」「モントレイル戸隠マウンテントレイル」「FunTrails100KRound秩父&奥武蔵」「上田バーティカルレース」「比叡山インターナショナルトレイルラン」など、数多くの人気トレイルラン&スカイランニングレースのタイム計測を手がけている計測工房。
まもなく創業14年目を迎える同社は、ランナーが輝く舞台のつくり手として、マラソン大会やトレイルラン大会の成長期を支えてきた。代表の藤井拓也さんにお話をうかがった。
この時期にできることを
自社開発ソフトへの完全移行
———現在のお仕事の状況を教えていただけますか。
藤井:うちの会社は今年5月から創業14年目に入ります。現在は、年間170大会ほどの計測を行っています。3月から依頼されていたすべての大会が中止になっていて、5月まではいまのところ計測する大会はゼロです。6月以降に開催予定の大会の中についても、『スパトレイル』などすでに中止が決まっている大会もあります。まだ開催可否を決めていない大会は、5月6日の緊急事態宣言解除まで様子を見ているといった状況です。
———社員の皆さんはいまリモートワークですか。
藤井:5名の社員のうち電車など公共交通機関を利用している2名はリモートワークに切り替え、私を含めて3名は会社の近所に住んでいて徒歩か自転車で通えるため、オフィスに出勤しています。
いまは本来の業務はしていません。コロナ感染が広まり始めた3月の始め頃は、社内の整理整頓と機材のメンテナンスなどを行っていました。と同時に、これまで手つかずのままになっていた作業にも取り組んでいます。そのひとつがトレイルランレースの参加人数ランキングの集計で、先頃HPで公開しました。
http://www.keisoku-kobo.co.jp/category/2110266.html(計測工房サイト)
———ほかに手つかずになっていた作業とは?
藤井:少し専門的な話になるのですが、うちではこれまで計測ソフトを2種類使用していたんですね。ひとつは以前私が働いていたアールビーズ社が開発したもので、ライセンス契約をして使用しています。もうひとつは2018年から運用を開始した自社開発のソフトです。
2つのソフトを大会の特性によって使い分けていたのですが、いま時間がありますので、すべて自社ソフトに移行する作業を進めています。ソフトが異なると大会前に行う事前作業がまったく変わってくるんです。これまでは大会が近づくとそれぞれ設定準備を行っていたのですが、これがかなり手間暇かかる作業なので、いまのうちにすべて移行してしまおうと考えています。
自社ソフトへの切り替え作業は簡単なもので1日、込み入ったものでは3日ほどかかります。コロナ終息後のため、いまのうちに仕事がしやすい環境を整えているといった感じです。
100マイル、110kmと2つのカテゴリーがある信越五岳は計測作業も長丁場だ。中央でPCに向かうオレンジのウェアが藤井さん
仕事を通して山岳レースの魅力を知り
自らも出場するように
———どのような経緯で計測のお仕事に就かれたのですか。
藤井:私は大学まで陸上競技に取り組んでいたんです。大学自体は弱いチームでしたが、箱根駅伝出場を目指していました。就職活動の時期になり、漠然と陸上に関わる仕事がしたいなと思っていたとき、たまたま書店で市民ランナー向けの雑誌「ランナーズ」を手に取りました。最後の方のページで、経営母体であるアールビーズ社がタイム計測の社員を募集しているのを見つけ、応募して入社しました。社内では部署の責任者も務め、8年半勤務しました。その後、独立していまに至ります。
競技生活の間に追い込みすぎて肉体的に走れなくなってしまったので、もう市民ランナーとしても走ることはないだろうと思っていたんです。それが計測の仕事をするうちにトレイルランと出合い、年々トレイルランレースの仕事が増えていきました。
自分はもともと山にも登らなかったのですが、トレイルランレースに接しているうちに、陸上とは違う魅力があることに気づいて、3年前くらいから出張先で一人で日帰り登山をするようになりました。それで2年前ついにランニングを再開し、昨年初めて山岳レースに出場しました。KTFが主催する『須坂米子大瀑布スカイレース』です。いまは長い距離を走るレースよりも、登って下るというシンプルなスカイレースに惹かれています。
———コロナウイルスによって、どんな変化を感じていますか。
藤井:いま、世の中がすっかり変わってきていますよね。働き方についてはテレワークやZOOM会議が増えましたし、オンラインを使った情報収集もより盛んになっています。トップ選手のオンライン講習会などは少し前から存在していましたが、ここに来て一気に知れ渡った感じがします。子どもたちの学校の授業もタブレットを活用したオンライン化が進んでいますし、医療も同様です。
あらゆるものごとでオンライン化が加速したことで、逆にリアルの場の価値が高まるのではないかと思っています。いわゆる「Do Sports」ですね。
最近よくいわれているのが、外出自粛によって、近所でジョギングを始めた人が増えたということ。ランニング人口の底辺がまた広がるのではないでしょうか。そうなると、コロナが一段落した頃にはマラソン大会やトレイルランレースの注目も高まると思いますし、それに伴って計測の需要も増えるのではないかと考えています。
自宅からほど近い場所にあるオフィス。終息後を見据えての作業が続く
———大会の形についてはどうでしょうか。
藤井:大会様式は変化すると思います。たとえば私が会社を立ち上げた十数年でマラソン人口は増えましたけれど、少子高齢化により運営スタッフは減少しています。
とくにここ2〜3年、地方大会では運営の人手不足によって中止に追い込まれるケースも出てきています。そうなると、より少ない人数での運営方法が求められるようになってくると思うんです。
ランナーなどの一般ボランティアはこれまで同様に集まると思いますが、地元の人たちの確保が難しくなるでしょう。すでに、行政が地元の団体に声をかけてスタッフを集めているトレイルラン大会などは、人員確保が困難になってきているところもあります。こうした大会は今後より厳しくなっていくと思います。
———最後に、コロナ終息後のビジョンをお聞かせください。
藤井:アフターコロナでどう会社を経営していくかを考えると、一番の課題はより安定した基盤の構築です。コロナ以前も、ここ数年は台風などの自然災害が増加し、大会中止が相次いでいました。そうした状況も踏まえ、万が一、一時的に仕事が減ることがあっても大丈夫な企業体力をつけておきたいと思っています。
この状態が終息したら、必ず計測の仕事は増えるだろうと確信しているんです。そのためには物理的なキャパシティをどう広げていくのか、社員増強についても考えています。これまでうちではすべて縁故採用だったのですが、採用方法も変えていく必要があるのかなと考えているところです。
会社を創業してからこれまで忙しくて走り続けてきましたので、そういったことを考える時間的余裕がありませんでした。いま、立ち止まる時間をもらっているような気がしています。これからの会社のあり方を考える大切な時間です。
Photo Courtesy of Shinetsu Five Mountain Executive Committee
Interview:2020/4/13
Text:Yumiko Chiba