
ランナーのためのアクセサリーブランド「KAMIÜ /カミュウ」。カミュウの作品と出合ったのは、大阪のランニング専門店「ラン・ウォークスタイル(以下:RWS)」でのことだ。オーナーの三浦佐知子さんが女性ならではの視点で選んだ新しいブランドのひとつにカミュウがあった。「自分もたくさんコレクションしている」という佐知子さんのエピソードを聞きながら実際に手に取ってみると、紙のように軽くて驚かされた。耳元で揺れる様子がとても愛らしく、バリエーション豊かな配色が美しい。購入するお客さまの多くが、あれこれ迷いながら選んでいくという。
今回、佐知子さんからご紹介いただき、カミュウのデザイナー・和田友美さんのアトリエを訪ねた。クリエイターの夫・健一郎さんとともに逗子に暮らしている。お二人とも走歴の長いトレイルランナーで、カミュウがトレイルランレースの会場でブース出店する際には、健一郎さんも手伝うという。トレイルランコミュニティのメッカでもある湘南エリアから生まれたブランドについて、成り立ちや独自の製作方法などを伺った。
南米の伝統刺繍「ニャンドゥティ」がベースに
ーー私自身も愛用しているのですが、カミュウのピアス(イヤリング)からは身につける人に寄り添うような優しさを感じます。そもそもなぜランナー向けのアクセサリーをつくるようになったのでしょうか?
友美:かつて福岡のアウトドアフィットネスクラブでマネジャーの仕事をしていて、プログラムのひとつとしてトレイルランのイベントを開催していました。そのとき講師を務めてくださった方が、第1回のUTMF(現:Mt..FUJI100)完走者だったんです。それでお話を聞くうちに自分もUTMFに出場したいと夢を抱くようになり、トレイルランを始めました。初出場した2016年は悪天候のために大会が途中で中止になってしまい、2018年に再び出場してようやく完走することができました。その頃は朝ランを習慣にしていて、お化粧はなしでピアスだけ身につけて走っていました。
ーーその感覚はよくわかります。

友美:お気に入りのアクセサリー作家さんの大ぶりなピアスを着けていたのですが、走ると少し重かったんですね。「そういえばランナーに向けたピアスってないな」と思い立ち、もしかしたら需要があるかもしれないと考えました。サーファーの方がサーフィンに合うピアスをつくったりしていたので、ランニングに合うピアスがあってもいいのではと思ったのです。
ーーなるほど。ご自身が欲しいものをつくるところから、ものづくりが始まったわけですね。過去にもアクセサリーづくりのご経験があったのでしょうか?
友美:手先は器用な方でしたが、とくにものづくりはしていませんでした。それで、どんな素材がいいかあれこれと探していたとき、たまたま南米の伝統刺繍「ニャンドゥティ」のワークショップが鎌倉で開催されるという情報を見つけました。ニャンドゥティがどんなものかもまったく知らなかったのですが、参加して簡単なモチーフをつくったところ、すっかりはまってしまって。「これはいけるかもしれない!」とピンときて、その日のうちに参考になる本や道具を購入し、独学でつくり始めました。
ーー閃いたと。
友美:そうですね。夫からは「また始まったか」と言われたんですけど(笑)。
健一郎:妻はひとつのことに熱中するとすごくのめり込むタイプなんです。逗子に引っ越してきてすぐは毎日のように地図を持って、近所の藪をこいでトレイルを走ったりしていました。

ーーこちらの図案集を拝見すると、ひとつひとつのデザインに名前がついているんですね。
友美:昔のパラグアイの方たちは名前をつけていたようです。生活に密着しているものが多くて、まゆとかでべそとか、ダニとか面白いんですよ。ニャンドゥティは女性の手仕事として受け継がれていて、現地ではテーブルクロスなど大きな作品が多いんです。いまは職人さんが高齢化してしまって、継承する人も少なくなっているらしいんですけど。
日本にもニャンドゥティの協会があり、多くの作家さんは伝統的な刺繍を継承しておられますが、私の場合はニャンドゥティの美しさや軽さ、つくる楽しさに惹かれて、技法としてアクセサリーづくりに取り入れているという感じです。

ーーいま製作していらっしゃるピアスの刺繍はオリジナルデザインですか?
友美:そうです。こうした図案集をヒントにしながら、どうやったら刺繍できるかと自分で考えながらデザインを決めています。
ーー下書きを描いてから刺繍をするのでしょうか。
友美:アウトラインだけ描いて、あとはフリーハンドで刺繍していきます。
ーー製作行程を教えていただけますか。
友美:まず木枠に布を張って、アウトラインだけ描いて刺繍をしていきます。布に縫い付けているのは刺繍の外側だけで模様部分は浮いた状態なので、最後に布からペリッと剥がすことができます。

ーーひとつの木枠をすべて刺繍するのには、どれくらいの時間がかかるのでしょうか。
和田:短くて1週間、長くて2週間くらいです。布がピンと張れていないとモチーフの丸が歪んでしまいますし、糸の引き具合でも形が変わってしまうので力加減も大切です。あとは、糸の毛羽立ちをなくすなど、仕上がりが美しくなるように細部に気を配っています。
何度も洗濯を重ねて、耐水性を実験
ーー独学で初めて商品になるまでに、どんなご苦労がありましたか?
友美:いちばんの課題は耐水性でした。本場のニャンドゥティは、一度、糊付けして形を保っているのですが、水性の糊を使うので水気に弱いんです。トレイルランでは汗をかきますし、雨が降ることもありますから、そのデメリットをなんとかクリアしたいと思いました。布から刺繍を外す際に1度目の糊付けをして、外した後に樹脂系の糊を使って2回コーティングしています。コーティング後も糸の毛羽立ちを整えたり、ビーズ部分のコーティング材を拭き取ったりしてから、乾かします。
完成後は50回くらい洗濯を繰り返して、コーティングの強度を確かめる実験をしました。それで、水に耐えうるものが完成したのが、2019年のことです。その年の「OSJ ONTAKE 100」に出場した際、自分で試作品を身につけて走ってみました。ゴール後にピアスをチェックしたところ問題がなかったので、製品化することにしました。
ーーいつ頃から販売を始めたのですか?
友美:ちょうどその頃、ご近所の方で欲しいと言ってくださる方がいらしたので、2019年8月にネットショップをオープンしました。自分がレースで身につけてよさを実感できたこともあり、同じようなアクセサリーを求めている方に届けられたらいいなという想いがありました。

ーーいまはアクセサリー製作を専業されているのでしょうか。
和田:コロナ禍の2020年からカミュウ一本で仕事をしていますが、週一回、逗子にある惣菜店・エイドキッチンで仕込みのお手伝いをしています。
人とのご縁が繋がって
ーーカミュウのインスタグラムを拝見すると、女性ランナーが身につけている写真がいろいろ掲載されていますね。
友美:近所に住むトレイルランナーの友人にモデルをお願いしています。うちの場合、大会で身につけてくださっているランナーさんを見て、ブランドを知ってくださる方がとても多いんです。RWSの佐知子さんはもともとご自身で身につけてくださっていたそうなのですが、湘南エリアに住む私の友人がたまたまRWSに遊びに伺ったときにピアスの話題になり、ご縁が繋がってお取扱いいただくようになりました。

ーー昨年は、信越五岳トレイルランレースや伊豆トレイルジャーニー、FanTrailsなどの受付会場でブース出店をされていました。友美さんがブースにいらっしゃるときにはピアスからイヤリングへのパーツ交換もしていただけるんですよね。大会出店を始めたのは、どんな理由からだったのでしょうか?
友美:ブランドのオンライン販売だけですと、どうしても新しいお客さまとの出会いが少なくなってしまうからです。いまはトレイルランレースを中心にアウトドア系イベントなどに出店しています。
以前フェスで販売したこともあり、予想以上の反響をいただきました。一方で、クラフトマーケットに出店した際には、自分がブランドを通して届けたいと思っている価値や価格などが、お客さまの趣向と合わないような感触がありました。そういう意味では、アウトドア志向の方々が、よりカミュウのコンセプトや価値観と合うように感じています。
ーーアクセサリーに何を求めるかが、クラフトマーケットのお客さまとは少し違うのかもしれないですね。
友美:そうですね。多分そこが大きいと思います。


自分が見た風景を色彩に落とし込む
ーーカミュウの魅力のひとつに配色の美しさがあると感じています。色味は感覚で決めていらっしゃるのですか?
友美:好きな色を組み合わせることもありますし、実際に自分が見た風景や街中で見かけた配色を写真で記録しておいて、参考にしたりもします。
ーーどんな写真を撮ることが多いのでしょうか。
友美:たとえば風景なら北アルプスの黒部渓谷で見た緑、イエロー、オレンジのグラデーションとか。ほかに花や虫、深海魚などの配色も参考にしたりします。色の組み合わせを決めのるがもっとも時間がかかるんです。糸同志を重ねて色味を確認していくんですけど、実際に刺繍してみるとイメージとは少し違うこともあって、そういうときにはほどいて組み直します。
また、布に刺繍したときと木枠から外したときで見え方が変わります。光を背に透かしたときの加減というんでしょうか。浮き上がってみえる場所が違ったりするので、枠から外す瞬間がすごく面白いんですよ。ピアスは着けているときに揺れるので、裏面のどこで糸を繋げるのがよいかなどにも気を配っています。

ーー今後の方向性についてお聞かせください。
友美:お陰さまで、いろいろな方が手に取ってくださるようになりました。でも、まだまだブランド自体は広く知られていません。ネットショップで購入してくださる方は、みなさんどうやって知ったのかなと私自身も不思議に思っています。
これからもっと出会いを増やしていきたいですね。さまざまな土地に行って、知らない場所でポップアップ販売ができたらいいなと思っているんです。実際に手にとっていただける機会を増やせたらと思います。
ガレージブランドのギアを扱うセレクトショップは男性の店員さんがメインなので、ピアスについて理解していただくのはなかなか難しいのですが、たまたまミツマタ(植物)のブローチをインスタにあげたら興味を持ってくださってイベントに呼んでいただいたこともあります。そういう意味では、ピアスだけでなく、男性も身につけられるようなアイテムなどアプローチを少し変えてみるのもいいかなと思っています。

■KAMIÜ (カミュウ)
Instagram:
@kamiu_tom
オンラインショップ:
https://kamiu-handcraft.stores.jp
(*不定期オープン)
最新作はYAMAシリーズのブローチとチャーム


写真提供=KAMIÜ
文・写真=千葉弓子


