ブランドは地域と紐付くべき
Living Dead Aid by ANSWER4
2018年6月に高尾にオープンした『Living Dead Aid(以下LDA)』はANSWER4が手がけるスペース。「生きているか死んでいるかわからないようなギリギリのトレイルランナーが集う」場所だ。
オーナーの小林大允さんがデザインした室内は鮮やかなターコイズブルーの壁と、光を遮る漆黒のカーテンが印象的で、アウトドアブランドらしくない。ANSWER4の商品はほぼすべて、ここで手に取ることができる。
この秋にはLDAのランニングクラブも誕生。常に新しい問いを世の中に投げかける小林さんの素顔は穏やかで、いつお会いしてもリラックスした空気感。それでいて、ブレのない立ち位置が際立っている。
ブランドとしての「ANSWER4」について伺った。
アイテムの基本は100マイルのレギュレーション
ーーー小林さんとULTRA LUNCHのドミンゴさんが2016年から続けておられる『高尾クリーンナップ』に、以前参加させていただきました。そのとき、小林さんが「アウトドアブランドはエリアに紐付くべきだ」とおっしゃっていたのが強く印象に残ったんです。このスペースは、まさにその考えを具現化したスペースといえますね。
小林:そうですね。アウトドア業界で思い浮かぶのはベンチュラを拠点にしているパタゴニア。僕はその感覚が当たり前だと思っています。会社=地域という意識が。
ーーーさらに「アウトドアブランドはもっと社会貢献活動をするべきだ」ともおっしゃっていました。そんなことを考えておられるとは想像していなかったので、正直、驚いてしまったんです。すみません(笑)。
小林:あはは、そうですよね(笑)。でも、ほんとにそう思っているんです、僕とドミンゴは。だから毎月一回のクリーンナップも10年は続けようと言っています。山遊びの為のプロダクトをつくる立場としての責任、遊び場を綺麗にすることは当然。少しくらいは社会に貢献にしないとなと思っています。そういう活動がなかったら、ただロゴが違うだけで、中身はどれもさほど大差ないじゃんと。
ーーーあらためて、ブランド設立当初のことを教えていただけますか。
小林:2014年のUTMBに出場する際、背負いたいザックがなくて、自分でつくったザックを背負って完走しました。その試作品をもとに商品化したのが、その年の12月に発売した『FOCUS ULTRA』です。
ーーー前職は広告代理店勤務と伺っています。
小林:ANSWER4を立ち上げる頃には営業を担当していました。
ーーーANSWERに4には確固としたスタンスがあり、いつもそのブランディング力に驚かさるのですが、根底には前職でのご経験があるんですね。立ち上げ時、どんなブランドをイメージしていたのですか。
小林:自分が一応ウルトラランナーということもあって、当初から100マイルを走ることを想定したプロダクトを展開していこうと思っていました。ただロゴだけプリントされたTシャツとか好きじゃないので、ULTRA HEAVYの神山隆二さん、ジェリー鵜飼さんやイラストレーターのジュン・オソンさんにデザインをお願いしたりしています。
トレイルランの世界にユーモアを!
ーーー『FOCUS ULTRA』のリリースと同時期に、アイコンとして『ぴょん太郎』が歩き始めたのも面白かったです。
小林:ウルトラはちょっとストイック過ぎるので、もうちょっとゆるくてもいいんじゃないかと思って。スポーツとしてのトレイルランをプロダクト的に見てみると、ストイックでユーモアがないなと思ったんです。
ぴょん太郎が描かれたボトルが店内のライトに
—— 確かにユーモアの成分は少なめですね。
小林:ブランドを立ち上げる前、自分がトレイルランのバックパックを買おうとすると、好みのカラーリングが無くて困りました。そのパックに服を合わせなければいけないじゃないですか。
それで、フォーカスウルトラを発売するときに、背面5色、ファスナー10色の中から好きな組み合わせを選んでもらおうとセミオーダーでスタートしました。いまはフォーカスウルトラのほか、ファストパッキングに向けた20Lのもの、アメリカのウルトラレースをイメージしたウエストベルトなど全部で5種類のパックを展開しています。
———なぜバックパックを最初につくったのですか?
小林:突破口としての意味がありました。UTMBに出るときからずっとネオシェルのレインウエアをつくりたかったし、Tシャツやフリースもつくりたかった。でも、いきなりすべてつくるのは費用が足りないので、まずは難易度の低いパックからと思って。100マイルのレギュレーションを全部網羅していく中で、最後に販売できたのがネオシェルでした。
FOCUS ULTRA
——— ブランド名はどこから?
小林:ANSWER4の「4」は「for」の意味です。ザックをセミオーダーで始めたので、「(誰か)〜のため」という意味を込めています。
———当初、ガレージブランドのアトリエに見本があったので、ガレージブランドの立ち位置なのかなと思っていました。でも、いまはかなり違いますよね。
小林:そういう括りにはまったく興味がなくて。むしろ、海外を意識しているので、バックパックの形状も日本と欧州全域で意匠登録を取得しています。
——— 常に先を見据えておられる印象を受けます。新鮮なイメージのアイテム展開など、小林さんのビジネスセンスはどこから生まれているのかなと、いつも思います。
小林:やっぱり広告業をやっていたことが大きいです。先の先のその先まで読まないと、クライアントから信用は勝ち取れないですかね。A案、B案、C案と出して、その意味をちゃんと用意しておかなければならないんです。「なんとなくカッコいい」だけではクライアントの「なぜ?」に対する返答が出来ない。
だからANSWER4の展開についても、一見関係ないと思う事をしていても、どこかで繋がるようにしています。全く繋がりのないことをやってもしょうがないです。
これからは海外へ発信していく
ーーーサポート選手の活躍も目立ちます。
小林:いま、サポートアスリートは9名。井原知一、永田務、小原将寿、田中裕康、小野雅弘、星野由香理、福島舞、齋藤美紀、久津間紗希。速いだけじゃない表現力のあるチームだと思っています。トップアスリートの中にはすぐにレースを辞める人もいます。アスリートとして悪い成績を記録に残したくないという気持ちからなんでしょうけど。でも自分はそういう選手より、リタイアしないで最後まで諦めずに走る人が好きです。
——— ブランドとして、もっと大きくしていきたいというお気持ちはありますか?
小林:取り扱いアイテムは、これ以上はあまり増やさないと思います。今年の夏はUTMBにブースを初出展したので、秋からはアジアにも目を向けていきたいと考えています。UTMBでは、アジアの選手がめちゃくちゃ増えていましたので。
——— トレイルラン×キティちゃんの組み合わせは斬新でした。
小林:カテゴリーの「ウルトラ」は過酷や繊細とかのイメージが強いですが、もっと肩のチカラを抜いてもいいんじゃないかと思って。そう考えたらハローキティしかないなと。ハローキティは世界的に人気があるキャラクターなので、うちを知ってもらうきっかけになればと思います。
ーーーカジュアルな価格帯のサングラスも登場しました。
小林:オリジナルで型を起こしてもらい、ミリ単位で細部を詰めてデザインしています。既存品に名入れするのが好きじゃないんで、オリジナルにこだわりました。
上)キティちゃんのTシャツ。ポリエステル100%でレースにも対応 2)メイドインジャパンのサングラス
販売店という意識はない
ーーー100マイルのレギュレーションアイテムを揃えて、ここをオープンされたわけですが、この場所をつくった理由を伺えますか。
小林:これまでWebでの販売がメインだったので、「どこで試せますか?」と聞かれることが多くて。それでどうするか考えたとき、ただの直営店を開くというよりも、何かもっと面白いことをやりたいなという気持ちが強くありました。
ーーービールを扱っているところがANSWER4らしいなと思うんですけれど、最初から置こうと思っていたのですか?
小林:実店舗をつくろうと思った時から考えていました。お酒とアウトドアって、個人的にかなり親和性が高いなと感じていて。2〜3種類じゃ芸がないと思ったので、海外のクラフトビールを中心に約50種類揃えています。海外レースに行ったときに出合ったビールとか、ほかの店であまり扱っていないものを選んでいます。海外に住んでいた方なんかが、「ここにこんなのあるんだ」と懐かしがって買ってくれたりします。ビールだけ買いに来てくれる人もいます。
オリジナルビールもあります。Far Yeast Brewing の『東京ホワイト』に、うちオリジナルでレモンとブラックペッパーで味つけしています。走った後に飲むにはIPAやペールエールではきついなと思ったので、いちばん軽いホワイトエールをベースにしました。
上)オリジナルビール 下)クラフトビールは約50種類。ほかにソフトドリンクも
ーーー爽やかな味わいで飲みやすいですね。
小林:軽めなので、女性でも飲みすいと思います。このメーカーも山繋がりの友だちです。あと、高尾クリーンナップで知り合った高尾のブリュワリーのビールも扱っています。クラフトビール以外はオーガニックジュース、コンブチャ、チャイなどで、普通のスーパーで買えないものを選んでいます。
ーーー空間の見せ方はどんなイメージで?
小林:あまりアウトドアショップ感を出さないようにしたかったんです。
ーーー見事に成功していると思います(笑)。
小林:僕が全体をデザインして、電球を60個くらい買って、天井につけました。壁は専門業者さんに塗ってもらいました。
ーーー高尾以外の候補地はあったのですか?
小林:高尾以外は考えていなかったですね。地域と紐付けることは、ブランド立ち上げの頃から考えていましたから。
ーーーここ数年でトレイルランにおける高尾コミュニティが急速に立ち上がってきました。鎌倉や六甲エリアみたいな感じというか。あと都内でいえば、聖蹟桜ヶ丘なども。
小林:いまこのあたりに9人くらいトレイルランナーが住んでいます。ムーンライトギアの千代田高史くんは、以前は西八王子の同じマンションに住んでいたんですけど、彼が高尾に引っ越すことが決まったのもあって、僕も一軒家を借りて暮らすようになりました。井原さんも引っ越してきましたしね。
山がとにかく近いので、ふらっと行けるんです。僕は朝が苦手なので、店が営業していないときには昼過ぎに南高尾を走って、家帰ってシャワーを浴びて仕事をしています。まわりの友だちは朝5時半くらいに集まって、5kmとか10km走ってから会社に行ったりしています。
いままでだったら週末に山に行くときにも、電車に乗って時間をかけて行ってましたけど、いまはすぐそこがトレイルヘッドですから。
ーーーこれからずっと高尾暮らしを?
小林:ネックは長男ということですね、両親は帰ってくることは諦めていると思うけど(笑)。
上)超軽量のウインドシェは70g。4色展開 下)レジカウンターの脇には栓抜き
ずっと気になっているのは、自動車のブランディング
ーーーイベントやランニングクラブも展開されています。
小林:イベントは第一弾が「永田務選手と朝までナイトラン」で、第二弾が「小原将寿選手のUTMBトークショー」、第三弾が「TACOMA FUJI RECORDS」のショップジャックで、第四弾が「井原知一選手×田中裕康選手×永田務選手のトークショー」です。他には福島舞選手の1日店長デーなど。
「LIVING DEAD AID by ANSWER4」は酒が飲めるイベントスペースみたいな位置づけなんです。byの後ろをいろんな人に変えたら面白いかなと。それで、LDAのロゴも、他の人がデザインをプラスできるような要素を残しています。神山隆二さんならスプレーで描くとか、汎用性が高い方がいいかなと。
ーーーこれからのビジョンは?
小林:ANSWER4やLDAでしか出来ない事をやっていきたいと思っています。
ーーーアウトドアブランド以外で、気になっているものはありますか?
小林:自動車業界ですね。ニュルブルクリンク北コースでのポルシェとランボルギーニの市販車最速タイム争い。
あとは、ル・マン24時間レース(トレイルランにおけるUTMBのような立ち位置のレース)でポルシェが三連覇したレース車両「919 Hybrid」をもとに展開している『The 919 Tribute Tour』。このツアーの一貫で改造した「919 Hybrid Evo」という車両で、35年間破られなかったニュルブルクリンク北コース最速記録を破るという企画です。
自動車ってそう簡単に買い換えるものじゃないですよね。だからこそ、ちゃんと世界観を創っている。自動車業界のやっている事やブランディングのやり方は勉強になります。
ーーーわかる気がします。ANSWER4の魅力のひとつは、落とし込みが速いところにもある気がしますけれども。
小林:うちは春夏秋冬の年二回で分けていないんですよ。それだとお客さんとの接点が少なすぎると思うからです。だから、欲しいと思ったモノはすぐにつくって販売する。それこそ、自動車業界でも年間、何回も新商品を発表してますからね。うちはいろんなタイミングで新商品を出してます。
パックにつけるキーホルダー型のリフレクターが欲しいという声があえれば、その日のうちに入稿してつくってしまうとか。
ーーーANSWER4はいままで、小林さんお一人で切り盛りされていましたよね。ひとりでブランドをつくっていると、孤独感に苛まれたりすることはなかったですか? いつも楽しそうで、ゆったり構えていらっしゃるようにお見受けしているのですが。
小林:ありました(笑)。お正月以来ずっと休みをとっていないですし。週末はずっと出店かLDAで、平日はデスクワークや店舗営業があるので、気持ちがきつくなることはあります(笑)。いまは店長がいるので気が楽ですが。
ーーー最後に、ANSWER4のこれからを教えてください。
小林:いつか靴をつくってみたいですね。あと、これとこれを結びつけたら面白いかなというアイデアは頭の中にあるので、それを具現化していきたいです。
Living Dead Aid by ANSWER4
193-0845 東京都八王子市初沢町1231-17-302
営業時間:12時~18時
https://answer-4.com
Photo:Takuhiro Ogawa
Interview&text:Yumiko Chiba